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プリムラの息付く頃に
ぬりたくられたペンキが
組み敷いた腕の中へと入ってきた
身をよじってふりかえると
をごめく、冬
きたいみたいなぼくの快感は
突如みみたぶに口付をして
にこり、
と、微笑む
見えた白い歯は一本多くて
とおりすがるスイッチの点滅音がよく似合った
甘さは
向こう数年の凝結をゆっくりとく
¥198の安っぽいイヤホンで蓋をしていた
ぼくの瞳孔を塗れさせ
八十八の静寂
Andante(♩=72)
1.
私は歌を愛していますが
歌は私を愛することなく
私は貴方を愛していますが
貴方と私は愛を知らず
私は人を愛していますが
人に私は愛しかたを問われません
2.
私は赤に焦がれていますが
赤は私を青だと言います
私は青に語りかけますが
青は私を灰色だと言い
私は灰色に縋りますが
灰色は私を透明という
透明に尋ねました
「わたしは なにいろです か」
透明は答えました
『あなたは あかい
君はカマドウマの脚だ。
カマドウマの脚を数える。
ひい、ふう、みい、よ。
…なに、大した意味はない。
私が寝ている間にやってきた彼を、
無意識に指で弾き飛ばしてしまったので。
申し訳程度に彼の脚を数えている。
彼の脚は一本折れていた。
彼の目は案外つぶらであった。
非難がましく見えてしまい、
私は彼から目を背けた。
扇風機の風に裾が揺れる。
柄にもない、洒落たオリーブ色のワンピースは、
色気ないTシャツと何やらお喋り
怪談噺:檸檬
高く高く本を積み上げ
その上に檸檬を一つ
薄汚い古い塔の先に
レモンイエローの爆弾が一つ
悪戯心に作ってみたが
なるほど、
中々に
愉快だな
背徳に孕む羽虫の影に
店を後にした私の背には
翅が生えていたことだろう
得体の知れない焦燥が
心を押さえつけるように
私は
羽化をしたのだね