君はカマドウマの脚だ。
カマドウマの脚を数える。
ひい、ふう、みい、よ。
…なに、大した意味はない。
私が寝ている間にやってきた彼を、
無意識に指で弾き飛ばしてしまったので。
申し訳程度に彼の脚を数えている。
彼の脚は一本折れていた。
彼の目は案外つぶらであった。
非難がましく見えてしまい、
私は彼から目を背けた。
扇風機の風に裾が揺れる。
柄にもない、洒落たオリーブ色のワンピースは、
色気ないTシャツと何やらお喋りをしている。
ぶうたれた扇風機は、黙って首を振っていた。
思えば、これは誰のためのワンピースだろう。
存外理由は簡単なもので、
ただ、『涼しいから』なのだそうである。
「おれとおなじかよ」
またもや扇風機がぶうたれた。
意外に気難しいな君は。
ところで、夜は大変良いものだ。
創作物が矢鱈と捗る。筆が進む進む。
ただし、代わりに寝付けず病んでゆく。
やれやれ、学ばないものだ。
個人開発と一言云おう。
伸ばす手は、常夜灯にさえ届かない。
虚しいものだ。
駄文の量産は、果たして創作物と言えるのだろうか。
カマドウマの脚があった。
先程私が折ったものだろう。
折れたままそこに落ちていた。
すまないと思いつつ、つまんでゴミ箱に捨てた私。
思い立つ。つまんで捨てた脚を、私はもう一度拾い上げた。
なるほど、こいつが私の駄文としたら。
はいて捨てるということか。
妙に千切れた節足がいとしくなってしまった私は、
脚を、食べた。
君ではなく、
私は、折れたカマドウマの脚だ。
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