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花相の読書紀行№.54『恩讐の鎮魂曲』

命の価値と正義、そして贖罪

【恩讐の鎮魂曲】/中山七里
<あらすじ>
韓国船が沈没し、251名が亡くなった。その事故で、女性から救命胴衣を奪った日本人男性が暴行罪で裁判となったが、刑法の「緊急避難」が適用され無罪となった。一方、医療少年院時代の恩師・稲見が殺人容疑で逮捕されたため、御子柴は弁護人に名乗り出る。稲見は本当に殺人を犯したのか? 改めて問われる「贖罪」の意味とは――。圧倒的迫力のリーガルサスペンス! またしても止まらない「どんでん返し」!!

★感想
いつも冷徹な弁護士“御子柴礼司”が、心に動揺を抱え法廷に挑んみ敗北するに至るストーリーは、御子柴の隠れた一面が現れます。
量刑を望む依頼人と無罪を主張する弁護人の狭間に、いつもの御子柴の冴えが効かない状況で、彼が挑む事件の裏に隠れているものは、“命の価値”そのものではないかと思います。
他者の命を奪ってまで守った己の命、己の命を落としてまで守った他者の命、そこにある正しい判断っていったい何でしょう。

人は弱い生き物です。弱者を攻撃しても自分を守りたいと思うのも理解できます。
ただ、私はこれまでも、これからも他者を攻撃してまで優越感を持ちたいと思わないし、蔭口や匿名まがいの批判もしない。
命についても、己の命は己の責任において取り扱いたいと思う。と言うと反感を感じる方も居るかもしれませんが、自分の死にざまは自分が決めたいのです。

依頼人“稲見”の揺るぎない一点の思い。その頑固さが自分に似ているようで共感をもって読みました。
その稲見の一貫した行動に法廷闘争の流れをひっくり返され、砂を嚙むような思をさせられますが、それでも何処で認めている御子柴がいます。

この裁判を通して、礼司がまた一つ人間の心に近づいたストーリーになっていると感じます。

“やがて文字がぼんやりと滲んできた”

ラストの一文が、御子柴礼司を益々好きにさせてくれました。




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