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花相の読書紀行№.87『銀の猫』

介抱人・お咲 二十五歳

【銀の猫】/朝井まかて
<あらすじ>
嫁ぎ先を離縁され、母親と暮らすお咲は、年寄りの介護を助けるプロの介抱人。
誠心誠意、年寄りに尽くすお咲のもとにはさまざまな依頼が集まる。
多くの病人に出会いながら、逝く人に教えられたことがお咲の胸に重なってゆく――
長寿の町・江戸では七十,八十の年寄りはざら。
憧れの隠居暮らしを満喫する者がいる一方、病や怪我をきっかけに長年寝付いたままの者も多く、介護に疲れ果てて嫁ももらえずに朽ち果てていく独り者もまた多い。
誰もが楽になれる知恵を詰め込んだ「介抱指南」を作りたいと思い立った貸し本屋から協力ををもとめられたお咲。
だがお咲の胸には、妾奉公を繰り返してきた母親への絶望感が居座っている。
自分は、あの母親の面倒を見続けることができるのだろうか。
いったい、老いて死に向う者の心にはなにが芽生えるのだろうか――?
江戸に暮らす家族の悲喜こもごもを、介護という仕事を通して軽やかに深く描く、傑作長編小説。(解説・秋山香乃 文蓺春秋BOOKSより)
 [目次]
 ・銀の猫
 ・隠居道楽
 ・福来雀(ふくらすずめ)
 ・春蘭(しゅんらん)
 ・半化粧
 ・菊と秋刀魚
 ・狸寝入り
 ・今朝の春
 
★感想
朝井まかてさんの小説は、『御松茸騒動』もそうでしたが、時代小説でありながら今を描いているような気がします。
今回のお話は、江戸時代の介抱人、今で言う介護ヘルパーの“お咲”と、仕事先で出会う老人や家族たちのストーリーを8章に構成して書かれた長編物語。
各章それぞれの物語を単独で読んでも良い作品になってます。
 
何時の時代も老人介護は大変なものですが、江戸時代は長男が親の老後を見ていくのだそうです。これが今の時代なら男性の方々は大変でしたね。
この時代、武士や富裕層は、口入屋などから住み込みや通いの介護人を雇っていましたが、その優秀な介護人が主人公“お咲”でした。
 
本書の5章「半化粧」で触れている貝原益軒が書いた「養生訓」は、江戸時代の日常生活を送るための心得えを解いたものですが、その内容には、健康で長生きするために人はどうあるべきかを解き、広く人々に愛読された書物です。第8巻(最終巻)の養老では、介護の心得が記述されているようです。
その書物の総論に
「自分の身体は自分だけのものではなく、父母が授けてくれ、自分の子へと残すものであるため、不摂生をして身体を痛めつけることはしてはいけない。養生を学び、健康を保つことが大切である。欲のままに生活するのではなく、生まれてきたことに感謝をし、日々慎ましやかに楽しく生活することが長生きにつながる。」とあります。
まったく持ってその通りですが、現代人には誠に耳が痛いところですね。
ちなみに貝原益軒は、平均寿命40歳を下回っていた江戸時代にあって、83歳の長寿を全うしています。
この「養生訓」を分かり易く説明して頂いているサイト“健康長寿ネット”が有りますので、一度ご覧になってみて下さい。
私の生活を鑑みると、記載された心得に“×”が一杯付いてしまいました。(^▽^;)
URL:健康長寿ネット (tyojyu.or.jp)
 
主人公“お咲”の職業「介抱人」はフィクションとのことですが、この言葉一つとっても、江戸の庶民にマッチした描き方に感心させられました。
 
まかてさんの描く情緒ある江戸風景の中で、老人たちは実に強かに逞しく生きています。
私も、見習おう!!
単行本の表紙画もとっても素敵です。
 
長文を拝読いただき有難うございました。

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