昭和歌謡考…女は「待つ!?」
ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』の中で、誠司(二宮和也さん)は実は天樹勇太という警察官で、潜入捜査のため、恋人の梅雨美(桜井ユキさん)に「2年待って」といったまま音信不通。しかも5年を経過し、まだ梅雨美は待っているという設定で、「おいおい、昭和歌謡かよ」と思いました。
昭和歌謡と呼ばれる歌の中には、女性が男性を「待つ」というシチュエーションがよくありました。まずは誰もが知る、太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」(1975年)。
東京に旅立った恋人である男性と、田舎に残っている女性の遠距離恋愛と別れを描いた名曲。「待つ」という言葉は直接使われていませんが、「都会の絵の具に染まらないで帰って」と明らかに、男性を待っています。
続いては松山千春さんの「恋」(1980年)。こちらは「男はいつも待たせるだけで 女はいつも待ちくたびれて」と明確に「待つ」を使っています。飲みなのか、麻雀なのか、同棲している彼女を家で待たせる男性、といった感じでしょうか。客観的に見れば、女性が男性に愛想をつかしただけということなのでしょうが、千春さんの声とメロディーが抒情性を高めています。
テレサ・テンさんの「愛人」(1985年)は、今でいうところの不倫関係の男女を描いた曲と想像されます。「私は待つ身の女でいいの」と言っていることから、男性が既婚者で女性宅に時々通ってくるということなのでしょう。
ここまでの歌の作詞は、松本隆さん、松山千春さん、荒木とよひささんといずれも男性です。ある種の(昭和世代)男性の願望とか、妄想とか、「女性がこうであってくれたら」というものがベースにあるのかも知れませんね。
今度は女性が作詞した例。あみんの「待つわ」(1982年)。女性デュオでしたが、その一人の岡村孝子さんの作詞・作曲です。タイトルもズバリそのままですが、歌の中でも何度も「待つわ」が繰り返されます。ただ、「他の誰かに あなたが振られる日まで」というラストが、ちょっと怖いなと(笑)。女性らしい?ややシニカルさが効いています。
最後は、女性が「待つ」に異を唱えた曲。山口百恵さんの「プレイバックPart2」(1978年)。「女はいつも待ってるなんて 坊や一体何を教わってきたの?」と、相手の男性を坊や扱いするほどです。
ちょっと解釈が難しい歌ですが、登場する「あなた」と「坊や」は同一人物であって、主人公である女性と同棲する年下男性。恋人目線では「あなた」、彼の子供じみた振る舞いで喧嘩した時は「坊や」と。実際に口にしたわけではなく、心の声ということなのでしょうが。
作詞したのは、夫・宇崎竜童さんと共に、山口百恵さんのヒット曲を多く手掛けた阿木燿子さん。「男は外で仕事、女は家庭を守る」といった、それまでの古い考えに縛られない「翔んでる女」の先駆者だった阿木さんならではの歌詞だなと。