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「復讐」について考えた…映画日記『ラストマイル』

定期的に映画館で映画を観る新習慣の第33弾。今回は、8月23日公開の『ラストマイル』。野木亜希子さんのオリジナル脚本で、塚原あゆ子監督が演出。プロデューサーは新井順子さんという『アンナチュラル』『MIU404』の座組。

主演は満島ひかりさんで、メインキャストに岡田将生、阿部サダヲ、ディーン・フジオカ、火野正平、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己(ここまで敬称略)。また、石原さとみさんや綾野剛さん、星野源さんなどTBSドラマ『アンナチュラル』『MIU404』の出演者も再集結。

11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界的なショッピングサイト最大手から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく(シネマトゥデイから引用)。

かなり遠回りから話をしたいと思います。現在、地上波ドラマで時代劇枠はNHKの大河ドラマのみですが、子供の頃は民放各局でゴールデンタイムに放送されていました。

作品によって作風は違うものの、定番の一つが「仇討ち(敵討ち)」という、「私刑」による「制裁」であり、「復讐」。近代国家においては認められていませんし、現在の価値観からすれば、ただの「人殺し」ではありますが、当時は称賛されたことですし、時代劇世代としては理解する面もあり。

『アンナチュラル』にも「復讐」がテーマの回がいくつかあります。作品全体を通して、恋人を殺された中堂系(井浦新さん)の復讐心と、それに抗う主人公・三澄ミコト(石原さとみさん)という構図を踏まえての第5話。

恋人の果歩(青木美香さん)の死が、実はまゆ(城戸愛莉さん)の犯行であると中堂経由で悟り、まゆを殺害しようとした鈴木巧(泉澤祐希さん)。凡百のドラマなら、ミコトの言葉で止まるところを、巧はトドメを刺し(未遂に終わりましたが)。「復讐」というものを考えさせられた神回でした。

次は第7話。共にイジメ(=暴行・恐喝etc)られていた横山(神尾楓珠さん)の自殺を受け、自分を責める白井(望月歩さん)が、ネット上で犯罪予告しながら、主犯格の小池(小野寺晃良さん)の名前を晒した上で、自分も死のうとしますが、そこでミコトが言った一言は、本作の名言の一つ。

「あなたが死んで何になるの?あなたを苦しめた人の名前を遺書に残して、それが何?彼らはきっと、転校して、名前を変えて、新しい人生を生きていくの。あなたの人生を奪ったことなんて、すっかり忘れて生きていくの。あなたが命を差し出しても、あなたの痛みは決して彼らに届かない。それでも死ぬの?あなたの人生は、あなたのものだよ」

現実世界においても、同級生をイジメ(=暴行・恐喝etc)で死に追いやったり、精神的に重度なトラウマを植え付けながら、お咎めなしどころか、人生を謳歌している人間も少なくなくないのでしょう。彼ら彼女らはきっと言うんでしょうね。

「若い頃は、ちょっとヤンチャしていて」

最終回。連続殺人犯の正体が高瀬(尾上寛之さん)と判明し、復讐する気満々で向かった中堂でしたが、高瀬は先回りして警察に出頭。決定的な証拠もなくなったことから、このままでは高瀬は数年の求刑に。

そんな状況を救ったのが、中堂の恋人であり、高瀬に殺された糀谷夕希子(橋本真実さん)の土葬された遺体。最新のDND鑑定の結果と、ミコトによる高瀬への煽りにより、自ら自供。明示はされていませんが、恐らく彼は死刑。死人の夕希子よる復讐劇であると共に、中堂の魂を救う救出劇でした。

いい加減、前置きが長い自覚はあるので、ここからは壮大なるネタバレあります

本作の大きなテーマは、現代的かつ国際的な「資本主義」&「格差」問題でありますが、個人レベルでいえば、そうした大きな問題に巻き込まれたある人物の悲劇と、その恋人の復讐劇であったと思います。

米国に本拠地を置く、例のネット通販サイトをモデルにしているのは明らかですが、序盤のブルーカラー(非正規労働者)の連絡バスや受付シーンなど、内部情報をリサーチし、細部に至るまで再現しつつも、クレームがつかない程度に似せないようにしたスタッフの努力に拍手。

主演の満島さんは、事前に番宣をバンバンこなしていて、持ち前の明るいキャラクターだったために、映画序盤はその地続きで見ていましたが、徐々に下請け企業へのパワハラとか、なんなら犯人?と思わせてきますが、全ては大どんでん返しのため。番宣自体も、実は計算の内だったんでしょうね。

これまた、例の米国大手ネット通販サイトを彷彿とさせる12か条のキーワードの一つ「すべてはお客様のために」。この巧妙に仕組まれた言葉は、ブルーカラーのみならず、社員クラスのエレナたちも追い詰める「呪いの言葉=マジックワード」。正確にはこうでしょう…「全ては経営トップ(資本家)のために」。

案外とあっさり、犯人への協力者と犯人自身も特定されますが、そこから二転三転。舟渡エレナ(満島ひかり)は、下請け企業と組んで、一矢報いる展開ですが、解雇されるという苦みもあり。

難点を挙げれば、連続爆破の犯人とその動機となる恋人の同じシーンの描写がない。『アンナチュラル』では第9話で、中堂と夕希子の馴れ初めと悲劇がしっかり描かれていたために、説得力がありましたが、本作では唐突感。

恐らくは、興行というビジネス上、2時間(128分)に収めるというのが、大人の事情で決まっていたのでしょう。とはいえ、どう考えても3時間弱は必要でしたし、そこが本作の最大の弱点だったのかなと。

願わくば、ディレクターカット版と称して、3時間版のDVDが出ますように(恐らく、野木さんの脚本ベースでは詳細に描かれているでしょうし、泣く泣くカットされたシーンもかなりあるでしょう)。

最後に、『アンナチュラル』『MIU404』ファンからすると、メインキャストが揃ったとはいえ、案外出番は少ないですし、派手に活躍もしないのですが(恐らくは意図的)、『アンナチュラル』に登場した少年のその後の姿が、一瞬だけ見れてそこは胸熱。中堂が当時彼にかけた言葉で締めます。

「許されるように、生きろ」

余談:『アンナチュラル』と『MIU404』を映画の前に復習(あるいは予習)した人も少なくないようですが、追加でNHKドラマ『あなたのブツが、ここに』もお勧めします。サプライズ出演の仁村紗和さんの起用は、恐らくこの傑作にあるのかなと。


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