まずは、感謝を。 秋ピリカグランプリ、運営のみなさま。 審査員のみなさま。 参加された執筆者のみなさま。 スキやコメントをくださった読者のみなさま。 本当にありがとうございました。 お疲れ様でした。 ずっと迷って迷って、いやでもなにか出すならこのタイミングしかないと思いまして。 とにかく、感謝を伝えたかったんです。 わたしはものすごく小心者なので、いつも迷っているうちに過ぎていってしまって後悔します。 なにかに、誰かに深入りすることがとても苦手で、でもそんなわたしが唯一
未練をしたためた紙を、小さく折りたたむ。行き先のないその手紙は、とても哀れで。ぐちゃぐちゃに丸めて捨てるなんて、できなかった。そこに内包されたもの、その全てが今のわたしを作っている。 「ねぇ、さっきからなに書いてるの?」 「…遺書」 「待って、え?なんて言った?」 「遺書、書いてる」 目が泳ぐって最初に言い出した人、誰だろう。上手いこと言ったもんだなぁ、なんて思いながら目の前の同居人をじっと見つめる。 驚くのも無理はない、分かっている。自分がいかに突拍子もないことを
「なんか、年々暑くなるなぁ」 青々とした空を恨めしく思いながら、郵便物を回収する。たった数分でも、焼かれるようだ。昼間は特に、なにもそこまでしなくてもと思うくらい気温が上がる。こうやって、暑い暑いと喚きながら夏が終わるんだ。 大人になれば、季節なんて関係なく、やることは限られてくる。仕事してたまに友だちと遊んで、恋人がいればデートなんかもして。まぁ、わたしはアメがいるからと言い訳して、ほとんど出かけないけど。 「季節が変わるごとに感動していた子ども
「さきちゃん、元気?」 「うん」 たまにこうして様子を見に来てくれる伯母には、頭が上がらない。わたしが在宅で仕事を始めてからは特に、篭もりきりにならないようにと外へ連れ出してくれたりもした。 「そうだ、桃。貰ったから、食べて」 「ありがとう」 想像以上に大量のそれに、苦笑いしてしまう。まぁ、ご近所に配ればいいか。昔、どんどん剥いてくれる父に、桃が大好きなわたしは、出されるままに食べて。まんまるになったお腹が苦しくて、ちょっと泣きそうになったことがある。そ
出先から帰って来ると、玄関先に人影。嫌な予感はまんまと当たって、わたしは再び女と対峙する。上げるべきかどうか、少し悩んで彼女―キミコさんに委ねることにした。 「上がります?」 「……はい」 冷静な自分にも驚いたけど、あの日の怒りがもうその目にないことにも驚いた。あんなに強いと感じた目線は影を潜めて、なんなら穏やかだ。あれ、この人こんな顔だったっけ?と疑問に思うほどに。 あの日と同じ動作で客間に通し、同じ動作でお茶を注ぐ。あのそわそわした心情はないけ
アメと暮らすようになってしばらく、思い立って転職をした。通勤は、心を病んだ人間にとっては苦行でしかないと気づいてしまったから。在宅でできる仕事を探して、なんとか生活を安定させた今、もう一度あの雨の季節がやってきた。別に恨みはないんだけどさ。 「なんか、苦手なんだよなぁ」 暗闇に引きずり込まれそうになる、あれと似た感覚に陥るから苦手だ。とは言ってもいい大人なんだから、恨めしく思う程度におさめておく。 昼間でも薄暗い雨の庭を、アメと一緒に眺める。あぁ、
あらすじ さきはある日、公園で猫に出会う。不幸が続いて塞ぎ込んでいた彼女の心に寄り添ってくれる猫。さきは雨の日に出会ったその猫にアメと名付け、家族として迎える。 そうして穏やかな日々を過ごす折り、招かれざる客がやってきた。その女は、さきの父の愛人だという。まさか父がと混乱するさきは女を追い返し、父の日記を読む。そこには、問題を抱えた夫婦の苦悩が綴られていた。 やむを得ない事情と、それでも受け入れ難い真実。さきは揺れながらも少しずつその事実を飲み込んでいく。 そして、さ
後ろ手に隠した約束で動けなくなったのね。
もう戻らないと誓った街が遠くで霧散する。
沈んでゆく、ソコには何かがあると信じて。 参加させていただきます。 やはり、20字って難しい…!
けたたましい、そんな表現がぴったりの笑い声。やかましい集団を横目に、歩く。大学生だろうか。その後ろ姿には、怖いものがまるでなにもないような逞しさがあった。 「青春って、愚かだなぁ」 少し前まで、自分もそこにいた。愚かしい時間、小さなことで泣いたり笑ったり。体の奥にあるなにかが、ぎゅうっとなる。そんな時間が、確かにあった。 疲れた体に鈍った思考。繰り返す日々に疲弊して、何かをゆっくり楽しむなんてことは、しばらくしていない。 まさか、就職先が見つからないまま春を迎える
泡になって消えた人魚姫、あのラストに泣いた人や憤った人もたくさんいるだろう。 羨ましい。 そう思ってしまったわたしは、それを誰にも言えずにいた。心配されたり、望んでないアドバイスを受けたりするのは、もううんざり。病んでるとかなんとか、聞き飽きた。 「ちょっと待って、君…」 「…なにか?」 夜の繁華街。確かに、子どもが出歩くには遅い時間帯。腕章をつけたその人は、声をかけたものの迷ってるようだった。 「未成年、だよね?」 見回りの先生だろうか。自分の学校の生
汗をかくのが嫌いなのなんて、にべもない。 密やかに浮かぶ真昼の月は、まるで生き物。 まどろみが邪魔をする、昼下がりの知識欲。 月を食んで刻を打つ。わたしは、時間泥棒。 大人になったら分かるわよって、嘘っぱち。 時間よ、止まれ。いつか、が来ないように。 六作品、書いてみました。 まだ期間はあるし、いくつでも応募は可とのことだったので、もしかしたら増えていくかもしれません。 20文字ぴったりがこんなに難しいとは思いませんでした。 しかも、小説なのか怪しいですが…個人的
珈琲と羊羹と、思春期。 僕の祖父は、和菓子がとても好きだった。小さいころから、祖父のやる事なす事に興味津々だった僕は、祖父に倣って和菓子を食べた。 中でも、羊羹は一番好きだった。 久しぶりに街へ出て、観たかった映画を観て、ブラブラと服や雑貨や本を眺める。 昔好きだった作家の新刊と、小さな雑貨屋で見つけた羊羹はまるで運命のようで、子どものようにわくわくした。 外に出ると思い出す。昔好きだったものや景色、その色々。 僕を彩るものは全て、祖父から教わった。大人
考えていることが、状況にぴたりと当てはまったとき。それまで思い悩んでいたことが嘘みたいに晴れて、まるで天啓を受けたかのような気持ちになる。 降りてくる。え、何が? と昔は思っていた。映画のワンシーンのように映像が浮かんで、それを元に書いていく。 とりとめがなく、霧散してしまうものも多いが、出来上がったときは非常に気持ちがいい。映像と一緒に核となる台詞やテーマが浮かんでくると、もっといい。驚くくらいさくさく書ける。まさに、『筆が止まらない』状態になる。風呂、トイ
りんご箱に入った大量のそれを、まるで親の仇かのように睨みつけて、あたしりんご嫌いなのよと彼女は吐き捨てた。 なんだかどこかで聞いたことのあるセリフだとぼんやり思ったが口には出さず、ふーんとだけ答えてさてこの大量のりんごをどうしようかと、考えを巡らせる。 りんごが嫌いな理由をつらつらと並べ立てる彼女の話は半分聞き流し、できるだけ袋に詰め込んでご近所へ。 「よかったら、どうぞ。たくさんもらったので」 「あら、ありがとう」 そのやりとりを何度か繰り返し、やっと軽く