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月の引力が君を見せるなら 僕は奪われないようにこうして気を引く
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#距離

ミジンコも宇宙もぜんぶにあの鯨の肌を思い出す
海の向こうの遠い国でも 銀河の先の星でも
脳の裏でずっと泳いでくれよ

物言う花が咲いている
モモノハナ
羽衣盗んだら灰にして呑んでやる
揺蕩う首筋 三日月印
その茎 折ったら終いだ
お嬢サマ、拝借させて頂きます

沁 雪降る泥の飢え
沁 陽降る花の思た

脳 舌 小指
煎じて飲むだけじゃア……
熟れたらなンとか心配不要
賞味は万事 口付けも微笑む

溺愛

溺愛

みな等しくタンパク質の塊なのに
世間はくさい社会の匂いがするのに
あの子は甘く優しい香りがして

みな等しく皮がくっついて
世間は安い剥がれたもの纏わって
あの子はふわふわ柔らかい

みな等しく脳みそ詰まって
世間は量産された蟻の線路を歩くのに
あの子は広く海を漂う

目が合ってから息が出来なくて
酸素も届かず頭も回ってない
思考に水が入って沈んでく
でも自ら飛び込んだ海だから
後悔は微塵もない

海より肉よりもずっと深いところにいる
受け売りだけど
馬鹿が喜ぶ桜になるなら
死体よりもずっと深いところにいる
芽吹かなくていい
根を這って
骨身を折るまで髄までここにいて
春風の吹く前に霜焼けの下で
凍えてしまって
幾億年後に目を覚まそう

舌っ足らず
80mgのカフェインを分け合って
スクラロースみたいな俺は
ほンものの砂糖に甘えてる
そうやって眠気ごと飲み干されてる

仮止めでしか起きれね、と唸っても
成程、カンケーないンだな
250mlを飲み干せないならと
半分、債務してくれるらしい
俺の人生呑ンでくれるらしい

言霊を信じがち、だから、さ
糸の絡まりに
ばいばいは、やめて
またねって、願掛け
意地悪なんかじゃなくて
寂しいだけの我儘
小指を千切るから

荒波で式を挙げよう
鉛の海が大好きなンだ
そんな俺を愛してくれたンだろう
この際は呑まないでやる
一枚で良いからさ
それが形見になるかもしれないだろう

甘い 甘い 香りに絆されて
簡単に誘われて
さっさと目に物見せてくれ
俺を抱き潰してくれ
あっけらかんと姿を晒さず
扉越しに蹲る俺を見下ろしている

甘い 甘い 香りに絆されて
簡単に誘われて
早く手を差し伸べてくれ
俺を絆き殺してくれ

唸り……唸り……
酔ってくるかい
でもね、危ないッて、言っただろう
そりゃあネ、触れて欲しいけどネ
そら、怯えてら
指の隙間から覗いてご覧
一つになりたいネ、撫でて欲しいけどネ
まだ怖いでしょ
鈍色の反射が睨んでるけど
これは躾で君のため
初心なまま足を滑らせないように

指先が身に這う
残り香に露
欲情に挟み込まれて蒸せる
猫舌のまま呑んで見せよう
喉元が勝手に笑う
洒落
冗談の睨み
強情を待てる事が人間の醍醐味だって
僕ァ理論伊達てるんだケド
君 気にしたことあるかい

押花の脆さと言ったら
茎を撫でて 葉に触れていく
随分綺麗に咲いてくれるね

だらだら塗れた色を摺っている
染めちゃあンましよくないンだけど
薄汚いからあんましよくないンだけど
ホルムアルデヒドに指紋を浸して
癖の最先端 記憶丸ごと
生業にしてます

雑音だらけの耳を引っ付けたまま
良ォ 聞こえる
啜り泣き

凝固液が足りないとか
全部 針が刺さってる所為

地面離陸

地面離陸

月の裏に行こうか
瞬きの合間に辿り着くだろう
安心して
彼らにも夜はあるんだ
だから一緒に踊ってしまおうよ
冬眠船から抜け出して

月の裏に行こうか
38万キロメートルを飛び越えて
安心して
僕らにも夜はくるんだ
だから一緒に眠ってしまおうよ
寒空の窓を開けて

安心して
アポロ11号なんて嘘だから

君の役はカウブーニャ
呪いをかけられたカウブーニャ
喉が乾けば目の前に葡萄酒
お腹が空けば目の前にパン
お姫様 望めばなれるかもね
王子様 呼べば来るかもね
死んじゃえって君がいったらお終いね
僕の役は呪い

なびく帆が折れたって
銀食器にとっぷり乗った星粒が
僕らの航海を涙している
真っ暗な快晴
月のお零れが君の頬をなぞる
鉛の海に溺れないよう
君は手を絡めている
なびく帆が折れたって
初めから櫂を漕ぐ気なんて無かった
夜風の怠惰に乗っかって
蝸牛の航路
君ごと連れて絶海を彷徨う