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Sehnsucht 第二の故郷へのあこがれ。

ミュンヘン中央駅で次の列車を待つ間、駅の売店をウロウロする。


懐かしい。


昔と何も変わっていない。少し変わったと言えばアジア系フードメニューが充実したという事だろうか。アジア系と言っても日本食ではなく東南アジア系、中華系の料理でご飯や野菜・肉を炒めたものだ。


XXXLとバカデカイサイズを表現したポテトフライもひとつの目玉と言っていいだろう。揚げても揚げても直ぐに無くなる。

そのトルコ系の店員は以前も居たのではないか、と思う。当然、と言ってよいのかは分からないが、住んでみると“当然”のようにこういった売店には外国人労働者が多い。

そして中には、簡単なドイツ語しかできないために、どこにでも、たまに居る意地悪な客に皮肉を言われる。

私が実際に見たのは、有名ハンバーガーチェーンでのこと。細身の黒人女性店員に対して

『言っていることが、何にも理解できていない!』

と、バカデカイ声で周りにアピールするように連呼していた。

辺りを見回してまるで同意を求めるかのように。

おい聞いてくれ、ここはドイツだろ?とその表情は語っていた。


チェーン店で、あれは抜け、これは入れろと最低限のもの以上のことを要求するのがどうなのかと疑問に思いつつ、国や、その国の人が豊かになりすぎると、ある時期から生活し辛い状況に陥る。賃金が伸びないにも関わらず物価や税金だけが上がっていったり。その穴埋め的に安い外国人労働者を受け入れる。豊かになった人たちがあまり見向きもしないような仕事が、彼らのテリトリーになっていく。

ただこれが続けば企業も自国民を雇いにくくなり、安い外国人労働者を重宝するだろうし、いくら仕事が無くなろうと今度は果たしてそのような仕事を“豊かな国”の人たちが選ぶのか、という問題が出てくる。


それでもまだ“老後の安心”のあるヨーロッパでは心に余裕のある人たちが多いように思うのだ。

結局、集めたカネの使い道、なのだと思うのだが。。。


さて、ミュンヘンからオーストリアのザルツブルグ行きの列車はだいたい一時間に1本のペースで運行している。

ユーレイルパスで乗れる席を探す。

取り敢えず良いクラスの席に乗れるようにしておいて良かった。

ドイツに住んでいた時もそうだったが、意外に利用客の多い便でもある。

出発前から満席になっていた。


なかなか、席が見つからない。

部屋タイプの席の車両に入るとやはり家族連れで利用している。


ちょっとダメかな、1時間くらいの乗車だし立ったまま乗っていようかな。

ドイツに住んでいた時もそんなことは度々あった。

そんな考えが脳裏を過ったが、しぶとく探す。


その車両の一番奥の部屋まで行ったときには、諦めが勝っていた。

どうせダメだろ。タラタラと視界の端の方にはいってくる情報だけで判断する。


半ば諦めかけていた為、

ん!?

2度見した。2回めにしっかりと中をみると丸い眼鏡をかけた白髪の女性がひとり新聞を読んでいた。


運よく座れるか。


扉を開け

『相席宜しいでしょうか?』

座るに決まっているのだが、社交辞令的に断りを入れる。

ジロリ。一瞬で私のすべてを確認するような眼差しだ。

『いいわよ。』


思いのほか愛想がない。大抵の場合、御老人となると、気さくな優しい方が多いものだが。

独特のくせのある女性に、まず苦手意識が先行した。

先程の親子と言い、バイエルンに入った途端、“洗礼”を浴びせ続けられている。

バイエルンの人たちの気質は分かっているつもりでも、こうしてまた日本の生活に舞い戻ってしまってから訪れるのでは訳が違う。

『よくバイエルンで修業したな、(他の州の)ドイツ人でも出来ることではないよ。』

荷物を置いて、席に座りながらハンブルグのロベルトの言葉を噛みしめていた。


小一時間の辛抱だ、適当に窓に流れる景色を眺めながらやり過ごそう。


『どこまで行くの?』

気遣いからくる、ほんの少しの緊張で、背筋を伸ばして顔だけ窓の外に向けていた私に突然話しかけてきた。


『キーム湖のプリーンまで行きます。』

『旅行かしら。お城もあるし。』

『いえ、旅行と言えば旅行なのですが。昔、8年程住んでいました。肉屋で修業していたのです。皆に会いに来ました。』

『あらそうだったのね。どこから来たの?』

『日本です。ランズフートでマイスターになった後、帰国して、お店をやっています。』


アジアの中でも、ヤーパン(ジャパン)のネームバリューは別格だと思う。初めは得体のしれないアジア人に一定の距離を保っているが、ヤーパンと聞けば彼らの緊張はほとんど解けてしまう。


そんなこんなで結局は話し込んでいた。


“次はバードエンドルフ”

プリーンなど小さな町を管轄するローゼンハイムの駅を出た列車のアナウンスが次の駅を告げる。


『あと少しね。』

地方中核都市のローゼンハイムで半分以上の乗客は降りる。

修行時代、私の通ったBerufsschule(職業訓練校)も、このローゼンハイムにある。週に一度、列車で通うのだ。駅のすぐ脇にはサッカー場も見える。

ここら辺では少し都会的なイメージもある。


特にこのローゼンハイムからバードエンドルフ、プリーンと進むとバイエルンらしい光景に癒される。

生き生きとした緑の芝生が目を引く丘。その中に建つ教会。その遥か向こうにはてっぺんに少し雪を残した山々。


ここまで来ると、地元に帰ってきた感が、ふつふつと溢れ出す。


『降りるのわすれちゃダメよ。』

話し込んだ私を心配して念を押す。


列車はバードエンドルフを出た。物の数分でプリーンに到着する。


こんなに色々なことがあるのかというくらいたくさんの経験をさせてもらった町プリーン。

第2の故郷に今帰還する。


『まもなく、プリーン アム キームゼー』

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