実用性のない学問が誰かを救う|マンガ感想「ここは今から倫理です。」雨瀬シオリ
「学校の勉強は大人になってから役に立たない」
そんな風に言われることがある。
けれど一見、実用性がないことを学ぶことができる貴重さは、大人にならないとわからないかもしれない。
すぐに切り捨てるのは、もったいないのないのかも。
この作品の中で「倫理教師」高柳は言う。
「倫理は、学ばなくても将来困ることは、ほぼない学問です」
「この知識がよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいたときとか」
「倫理は主に、自分が一人ぼっちの時に使う」
「どうですか、別に知らなくてもいいけれど、知っておいたほうがいい気はしませんか」
(第1巻、第1話より引用)
____________________
「ここは今から倫理です。」
著者:雨瀬シオリ
出版社 : 集英社 (2017/11/22)
発売日 : 2017/11/22
コミック : 224ページ
✒学校生活、家庭環境、教師、生徒、勉強、将来、個性、生き方、劣等感、性について、自殺、いじめ、友人関係、ジェンダー、信仰、オンラインサロン
____________________
あらすじを見ると、生徒に慕われて、金八先生のように格言をいう先生の話と思われるかもしれない。でも、そんなことはない。
あるシーンで、生徒に殴られた時
その腕を取り、高柳先生は言う。
「やめなさい。私は、あなたを殴れない」
「異性の生徒に至っては、落ち着くようにと背中をさすってやることも出来ません。セクハラになってしまう」
「お願いします。暴力はやめてください」
今の先生って、大変だ。
そして、このマンガに登場する生徒は誰も最初から先生の言葉を素直に聞いたりしない。(これはいつの時代も一緒?)
それでも少しずつ対話をして、救われることもある。その過程に大人でも学ぶところがある。そんなストーリー。
1巻は、レイプなどのセンシティブな話題が多く、苦手と感じる方も多いかもしれない。けれど、そんな話題ばかりかというと、そんなことはない。第一印象で避けてしまうのはもったいないと思う。
言葉に重きをおいて、いろいろな生徒に向き合う丁寧な作品なので、気になるテーマがあれば、そこだけでも…。
そこで、以下に印象深かった生徒と、高柳先生が贈った言葉を抜粋させていただこうと思う。作中では、引用した作品名や人名も明記したうえで先生が解説をしてくれているけれど、ここではサラリと。
* * *
1巻・いじめられた経験から、被害者を救う良い先生になりたい生徒
「善人も悪人も、みな善人」
「あなたはいつかいじめっ子をいじめてしまうかもしれない」
4巻・制服を着たくないXジェンダーの生徒
「嫌ならルール自体を変える努力をしてみなさい」
「信念を持つ1人の人間は、自分の利害にしか興味のない99人の人間と同等の社会的力を持つ」「あなたは99人のうちの一人ではきっとないから」
8巻・親と共に信仰する宗教の教えに悩む生徒
「疲れたなら休みましょう。信じているのなら、それくらいしてもバチは当たりませんよ」
「宗教は本来、人を苦しめるものではないのだから」
9巻・美大を勧められているグレーゾーンの絵が好きな生徒
「与えられ受け止めるだけの生活は欺くが、可能性は欺かない」
「鉛筆とノートだけだと、世界がコンパクトすぎて勿体ないんじゃないですか」
* * *
高柳先生は押し付けるところがなく、上から目線なところもない。
イケメンと言われるけれどモテるわけではなく、タバコを吸うので職員室でも肩身が狭い。
こんな真面目な話をしても嫌味がないところが魅力なのだけれど、雰囲気を言葉で伝えるのが難しい。あの絵でないと、伝わらない。
悔しいけれど、どうしても
「気になったら、読んでみて…!」と言うしかなく、マンガという表現が最高の方法だったのだろうと思うような
私にとっては、そんな作品だ。
…それなのに、文章で書こうとしたことを、しばらく後悔するかもしれない。
※Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。