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トランスジェンダーとして生きる|映画感想「リリーのすべて」

多様性という言葉をよく聞くようになり、思い出す映画がある。

はじめて性別適合手術を受けた人

映画「リリーのすべて」は、世界で初めて女性になるための性別適合手術を受けた、実在のデンマーク人画家と、その妻ゲルダを描いた映画だ。

あらすじ

風景画家のアイナー・ヴェイナーは肖像画家の妻ゲルダと結婚し、デンマークで充実の日々を送っていたが、ある日、妻に頼まれて女性モデルの代役をしたことを機に、自分の内側に潜む女性の存在に気づく。

それがどういうことなのかもわからないまま、“リリー"という女性として過ごす時期が増え、心と身体が一致しない状態に苦悩するアイナー。

一方のゲルダは夫の変化に戸惑いながらも、いつしか“リリー"こそアイナーの本質であると理解していく。

Amazon作品紹介より

主演のエディ・レッドメインは、ファンタスティック・ビーストでご存知の方も多いと思う。繊細な演技で、手足の仕草や視線だけでも、女性だと感じるシーンにハッとする。

女性らしい仕草を学ぶためにストリップを見て真似るシーンや、全身鏡の前で、性器を足の間に隠し、身体にドレスをあてがって微笑むシーンに妖艶さが漂っていた。

夫婦でのベッドシーンも多いのだけれど、妻ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルの身体も美しい。この映画は全体が芸術的な絵画のようだ。衣装も町並みも、リリーの描き方も美しくまとまっているのが魅力の1つだと思う。

女性モデルの代役のため、はじめてストッキングを履く日から、自分の中のリリーに近づいていく過程が丁寧で、なんだか苦しくなった。

妻、ゲルダのこと

ストーリーが進むと、トランスジェンダーであるリリーだけではなく、妻ゲルダの葛藤や苦しみが色濃く描かれる。

「夫が必要なの。彼を返して」と言っても、リリーになるのを止められなかった夫。自分に黙って、男性の元へ通った夫。夫に戻る努力しようとしても、やはり本質はリリーだと、最後にはその身体も女性へと変わっていった。愛した夫は少しずつ居なくなる。

それでも、ゲルダは最後まで、夫とリリーに寄り添った。

何人もの医師に精神分裂と診断された時。医学に助けを求め、手術を考えた時。前代未聞の手術に挑み、苦しみ、その後、徐々に死が近づく時。いつも妻が、そばに居てくれた。それが、どれだけ支えになっただろう。

素晴らしい愛の物語。そう受け取るべきなのだと思う。

けれど、こんなこと普通はできない。と私は思ってしまった。

皆がゲルダにはなれないし、それを理想のように語るのも、なんだか違う気がしてしまうのだ。

リリーが求めたもの

リリーは女性に混ざって高級なコスメカウンターで働いたこともあった。女性としての人生を歩み始めていた。それでも、危険な手術を選んだ。

「私は女だけれど、身体が間違ってしまった。
それをお医者様が治してくれる」

そう信じて、世界初の手術に挑んだリリー。

彼女が現代に生きていたら、なにを感じるだろう。

多様性に揺れる社会から、1930年代の彼女へ問いかけてみたくなる。


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