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書く仕事で生きるということ│角田光代さんインタビューより

今日も短い動画に心を掴まれたので
noteに書き留めておこうと思う。


  *  *  *

人気作家としての働き方改革

何気なく再生していたYouTube。おすすめされた動画がはじまると、角田光代さんのインタビューが流れた。

34年間作家として働いてきたけれど、思い切って働き方を変えることにして、依頼されたものを書く、ということから離れることにした。と聞いて、私は手を止めて動画に見入った。

これまでは、月に28本も締め切りを抱えていた(「多い時で28本の依頼があった」のではなく「月に28本までと決めて、それ以上は断っていた」)と聞き、依頼の多さと共に「そんなに大量に、誰かの期待に応えるクオリティの作品を書くことが可能なのか」と驚く。

角田さん曰く、筋力がついてくるように、出来るようになるのだそうだ。
…きっと、普通は出来ないだろう。

東洋経済オンラインのYouTubeチャンネルより。角田光代さんのインタビューは、その働き方や、推し本に迫る13分。

そんなにも引く手数多で、実際に3年先まで仕事が入っていたけれど、それをすべて断り、今後はオファーを受けずに書けたものを持ち込んでみることにした、というお話は、私の想像する人気作家像とは全く違うものだった。

賞に応募するためにデビュー作を書いてから、依頼されていないものを書くということを全くしてこなかった。と話す角田さんは、その後もサラリと
「タラント」という作品があるけれど、それも「オリンピック興味ないしなぁ」と思いながら、どんな媒体に載るのか、とか、依頼主の「こんな小説にしてほしい」という意向を汲みながら書き上げたと話す。

つまり、角田さんは34年間で1度も「書きたいものを自由に書いたことがなかった」ということか。

どんな作品も自分のもの

一流の作家さんは「好きなことで生きていける」限られた才能を持つ人なのだろう、と思っていた。けれど、プロとして生きていくのなら、そこにあるのは「望まれているものを提供し続ける」需要と供給によって成り立つ「仕事」なのだと気付かされた。

他の締切が迫っていて、とか
この分野に詳しくなくて、とか

そんなことは言えない。
読者にとっては全てが「その作家さんの作品」だ。

厳しい。大変な仕事なのだと、改めて知る。
その中で、一つ一つの言葉や文章を磨き上げていると思うと、キュッと胃が痛くなる思いがした。

「源氏物語」から考えること

インタビューの中で、角田さんはご自身が手掛けた「源氏物語」の現代語訳についても触れている。

光源氏の物語論から「物語こそ、人間の生きていることの本当のことを伝えてくれるもの」という部分を引用し

史実を読んでもわからないことも、物語を読めば気持ちがわかる。
フィクションを読んだほうが現実に触れられる。
と語られたことが心に残った。

そして、角田さんは「源氏物語が千年読み継がれたのは、紫式部の力ではない」という。実は書き手の出来ることは少なく、長く様々な人に語り継がれるためには、読み手の力が大きいと。

書き手は「手放す」ことしか出来ない、という言葉が印象的だった。

動画の中では、読み手がどのように受け取るかは自由だ、とも語られているのだけれど、そこで驚く言葉があった。

もし、読んだ人が「クソみたいな本だ」と思ったとしても、書き手が「クソじゃないよ」と訂正することは出来ないだろうなと思う。

「誰かに向けて書く」ことをはじめてから、私も時々考えるようになった事が、角田さんの口から語られている。衝撃だった。そして、少しホッとした。

角田さんの推し本

源氏物語を知るために、とても役に立った本として紹介されたのは、山本淳子さんの著書。

「どうして紫式部が清少納言を悪く言っていたのか、本当によくわかった」「天皇と中宮の一途な愛もよくわかる」

と聞き、読んでみたくなる。

もう一人、紹介されていたのが内田百閒だ。

短編が多く、パッと読める。
エッセイはとにかく面白い。
小説はちょっとうす気味が悪い一筋縄ではいかない作品が多くて
自分の成長と比例して味わいが変わる。

…こんなに読みたくなる書籍紹介も、なかなかない。

まだ一冊も読んだことが無かったので
すぐにAmazonで「吉田百閒」を検索した。
私はエッセイから読んでみようと思う。

職人みたいに

動画の最後では、お仕事でも沢山の本を読んでいる角田さん流の、本の読み方について語られていた。

どうしてデジタルではなく本屋さんへ足を運ぶのかというお話に、思わず親近感が湧いて「わかる!」と言いたくなる。

このインタビューでずっと感じていたことだけれど、大人気の作家さんなのに角田さんは全くそんな風に感じさせない。素敵だなあと思う。

以前、エッセイを読んだときに、仕事場は家とは別にあって、会社員のように毎日同じ時間にきっちり仕事をする。と書いていて驚いたのだけれど、インタビューを見て、ずっとコツコツと仕事を重ねてきた、しっかりと地に足がついた人なのだろうと感じた。まるで職人のようだ。

そんな角田さんが、はじめて自由に書きたいことを綴った文章が
私は、とても待ち遠しい。

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