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新幹線に乗ると思い出すのは あの一駅のランデブー 在来線で30分の距離を あえて新幹線に乗り 一区間 「こんな無駄も楽しいでしょ」って 子供みたいな顔 私はもう 恋に落ちていて きっとあなたも 落ちていて 二人見つめ合い 手を重ね 永遠に停まらないでと願う 無慈悲にも最速の鉄道が あっという間に私たちを運ぶ 恋の始まり 絡まる指 交わる目線 とろけるように熱かった 一区間
飛行機の上から届いたあなたの言葉は 超短編の小説のよう 直接的な言葉で伝えるわけでもない だけど真っ直ぐに胸を打つ 愛の言葉に 心がふるえた 私が惚れたのは そう なによりも あなたの「言葉」 写真で見たわけでもないのに 一緒に乗ったわけでもないのに その情景がくっきりと今も胸に残っている 写真で見せればすぐに終わること でも「言葉」なら 同じ世界を体験することができるのね あなたの隣で肩を抱かれて眠ることまで だからついうっかり そんな体験を本当にしたいと 本気で
はじまりのJAZZの夜 お店を出ると雨が降っていた 酔っていた私は 傘と傘で出来る二人の距離が 妙に遠く感じて 傘を閉じた あなたは肩を濡らし 優しく傘をかしげる 腕が自然とからまって 適正な二人の距離 誰もいない深夜のエスカレーター 前と後ろで立った時 また距離が適正ではなくなり ふりむきざまに あなたはキスをした
あなたが友達には誰にも言わずに 入院した時 わたしは遠路はるばる お見舞いに通った すぐ退院するからと言っていたのに 長引いて 早く元気になってほしいと願うと同時に 私は それを少し 嬉しくも思ってしまった 人気者のあなたを 独り占めできた気がして 元気になって ずっと後 そんなことをぽろりとこぼしたら 「そんな大事なこと 聞いてないぞ」と 目を見開いて ちょっと嬉しそうな顔 言えるわけないじゃない そんな不謹慎な願い
「あ~~、ぅんまっ!」 私が至福の声をあげると 目を細めて笑う 私は美味しいものが大好き なんでも美味しそうに食べる君が好き、と よく言ってくれていたっけ 私はそんな時のあなたの 優しい笑顔が大好きだったのよ 眩しげなその顔が見たくて より深く味わうようにしたら もっともっと 美味しく感じられて よりいっそう 「ぅんまっ!」が出て あなたはとっても満足そうに笑って なんて幸せなサイクル! 今日も私は「ぅんまっ!」って言うよ あなたのあの 細めた目 かわいい笑顔を
本が好きだったあなたは たくさん本をプレゼントしてくれた 誕生日にくれたのは 箱入りのとくべつな本 「ぼくが一番好きな本」と言って くれた 早く読みたいけれど なんだか家をちゃんと片付けてから ゆっくりした気持ちで ていねいに箱から出したくて ずっと本棚の一等席で 出番を待っていた こんなことになるなら 仕事が山積みでも 部屋がぐちゃぐちゃでも すぐに まっさきに読んで たくさん感想を伝えたらよかった きっとあなたは ずっと待ってくれていたのに 今はまだ 一ページも
あなたと出会ってから 空を見上げるようになった 月を愛しく 眺めるようになった 空は いつだって完璧だ 特に好きだったのは 日が昇る前の朝焼けの空 群青からオレンジやピンク、紫へ 見事なグラデーション 一瞬とて同じ色はなく 同じ雲はなく 目を閉じて 開けたらもう 変わっている なかなか会えない二人は 早起きだったから 綺麗な空を見つけたら 写真を撮って送り合った 空を見ていたら 繋がっていると感じられた 月もよく見上げたけれど 写真ではうまく映らないね でもあまりの美
コーヒーにはちょっとうるさい あなたが淹れてくれたコーヒーは とくべつに 美味しい 淹れる直前にゴリゴリ挽いてくれて わたし好みの 苦目のブレンドで 「愛の味がする」と言ったら 「大袈裟だな」って 少し照れて笑ったっけ でもほんとうに ひとくち飲むたび 心が生き返るようだった 味見をしては いつもすこし首を傾げていた コーヒーにはちょっとうるさい あなたの味 自分ではどうやって淹れても あの味にはならない おかしいな、同じ豆のはずなのにな やっぱりあれは 愛の味だ