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新幹線に乗ると思い出すのは あの一駅のランデブー 在来線で30分の距離を あえて新幹線に乗り 一区間 「こんな無駄も楽しいでしょ」って 子供みたいな顔 私はもう 恋に落ちていて きっとあなたも 落ちていて 二人見つめ合い 手を重ね 永遠に停まらないでと願う 無慈悲にも最速の鉄道が あっという間に私たちを運ぶ 恋の始まり 絡まる指 交わる目線 とろけるように熱かった 一区間
古書店で何気なく手にとった詩集 ビビビと来て即購入 詩を読まない私が 唯一好きだと思った詩が 載っている詩集 後日あなたに話したら あなたも同じ詩集を持っていると いくらあなたが読書家だからといって この世に万とある本の海の中 同じ詩集を偶然求めるなんて しかもこんなに狭く小さな古書店で まるであなたにビビビと来たみたいで 気持ち悪いような すこし嬉しいような そしてそんな二人が睦まじくいるためには 今となってはいったい 何をどうしたらいいものやら
いいおみやげを見つけたんだ、と 出張帰りのあなたからのLINE ああ、早く渡したい、と言いながら 「最高のお土産なんだ」 「これしかないと思った」 「君そのものだと思った」と 自ら上げ続けるハードルに やや心配になる私 サプライズができない性格 子供みたいね 実際にもらったおみやげは本当に素晴らしいもので 高さMAXになったハードルを楽々超えてくれたので 大袈裟に喜ぶ心づもりをしてた私は 安堵いたしました 中身はなくなったけれど 瓶は大切にずっと持っている 「私そのも
白と黒の色違い 一目惚れのお揃いマグカップ 柄はいくつもあったけど 問答無用で選んだ二人の柄 並べては 「なんて綺麗だ」と言い合った ひとつひとつでも綺麗だけれど 二つ揃うと別格の完成度を放った 今は棚の奥深くで 眠る 黒を探しながら 半身になって 眠る
最後にあなたがくれたのは お気に入りのお店にあった はちみつポット 使うたび私が「これいいなぁ」と呟いていた あのとびきりキュートな はちみつポット きっと「最後にせめても」なんて思って 同じの探してくれたのね でも優しいを通り越してこれはもはや 罪 ねぇ あれから私のはちみつ生活は 数段豊かになってしまったよ 便利すぎて使う前にはもう戻れないし かわいすぎて飾りたくなってしまうし そしたら見るたびあなたを思い出すし 一生使い続けるだろうから 一生あなたがここにいる
飛行機の上から届いたあなたの言葉は 超短編の小説のよう 直接的な言葉で伝えるわけでもない だけど真っ直ぐに胸を打つ 愛の言葉に 心がふるえた 私が惚れたのは そう なによりも あなたの「言葉」 写真で見たわけでもないのに 一緒に乗ったわけでもないのに その情景がくっきりと今も胸に残っている 写真で見せればすぐに終わること でも「言葉」なら 同じ世界を体験することができるのね あなたの隣で肩を抱かれて眠ることまで だからついうっかり そんな体験を本当にしたいと 本気で
あなたとこうなってすぐ 二重の虹を見た 地面からすっと伸びる 綺麗な二本の虹 凛と寄り添う 二本の完璧なアーチ あなたとこうなったことに まだ少し揺れていたわたしは 何者かに「それでいいよ」って言われた気がして 前に進むことを決めた だから二人がこうなったことは 間違いではなかったと思う 今がどうであろうと 誰がなんと言おうと あのとき 確かに 誰かが ふたりの背を押していたのだから
はじまりのJAZZの夜 お店を出ると雨が降っていた 酔っていた私は 傘と傘で出来る二人の距離が 妙に遠く感じて 傘を閉じた あなたは肩を濡らし 優しく傘をかしげる 腕が自然とからまって 適正な二人の距離 誰もいない深夜のエスカレーター 前と後ろで立った時 また距離が適正ではなくなり ふりむきざまに あなたはキスをした
あなたの家の近くの 大きな大きなクスノキ 両手を大きく伸ばして 悠々 のびのび 堂々と 空に広がる 私の理想の木 これまで出会ってきた中で 一番好きな木 私はとにかく 大きな木が好きだ 何をおいても 大きな木が好き 守られているようで 深く呼吸できて 安心する 今日ひさびさに楠に会いに行ったら 当たり前だけど 変わらずそこにいた 幹の前で目を閉じて 深呼吸する 木になったつもりで 足から養分たっぷりの水を吸い上げ 頭のてっぺんから酸素を放つ 水が体を通るたび 体が浄
あなたが友達には誰にも言わずに 入院した時 わたしは遠路はるばる お見舞いに通った すぐ退院するからと言っていたのに 長引いて 早く元気になってほしいと願うと同時に 私は それを少し 嬉しくも思ってしまった 人気者のあなたを 独り占めできた気がして 元気になって ずっと後 そんなことをぽろりとこぼしたら 「そんな大事なこと 聞いてないぞ」と 目を見開いて ちょっと嬉しそうな顔 言えるわけないじゃない そんな不謹慎な願い
あなたの好きな花は 紫陽花 それを知ってからというもの やたらと目につくようになりました 色はカラフル 形もいろいろ 目を見張るほどの彩り豊かなバリエーションに 私もすっかり虜になり 毎年暑くなり出す頃には あなたを思い出すのでしょう くやしいけれど これはきっと一生涯 続く 紫陽花は あなたの花 私の中で一生 あなたの花 しまったな、私も何か言っておけばよかった 毎年ある時期にだけ咲く 花の名前を 「お花はぜんぶ好き!」 って つい正直に 言ってしまった
「あ~~、ぅんまっ!」 私が至福の声をあげると 目を細めて笑う 私は美味しいものが大好き なんでも美味しそうに食べる君が好き、と よく言ってくれていたっけ 私はそんな時のあなたの 優しい笑顔が大好きだったのよ 眩しげなその顔が見たくて より深く味わうようにしたら もっともっと 美味しく感じられて よりいっそう 「ぅんまっ!」が出て あなたはとっても満足そうに笑って なんて幸せなサイクル! 今日も私は「ぅんまっ!」って言うよ あなたのあの 細めた目 かわいい笑顔を
街中では聞けない ひぐらしの声に うっとり耳をすましていたら あなたも隣で同じことをしていた そのあと聴いた 古いオルゴールの音色にも 同じように目をとじて 耳をすましていた JAZZが好きだと言ったら それも同じくで 古代の民族楽器の音色 小川のせせらぎの音 森の木々の葉がふれあう音 ことごとく 同じ音に響き合う おなじ耳を持っているのかな? いつか ひぐらしの声につつまれて 一緒に暮らしたいと 願っていた 懐かしく 切なく響く あの音のさざなみ 小川が奏でる か
本が好きだったあなたは たくさん本をプレゼントしてくれた 誕生日にくれたのは 箱入りのとくべつな本 「ぼくが一番好きな本」と言って くれた 早く読みたいけれど なんだか家をちゃんと片付けてから ゆっくりした気持ちで ていねいに箱から出したくて ずっと本棚の一等席で 出番を待っていた こんなことになるなら 仕事が山積みでも 部屋がぐちゃぐちゃでも すぐに まっさきに読んで たくさん感想を伝えたらよかった きっとあなたは ずっと待ってくれていたのに 今はまだ 一ページも