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[6] Michelberger Hotel @ Berlin, Germany

滞在時期:2018年7月
再訪問:2021年10月

「なんか分かんないけど、ベルリンっぽい、面白そう!」Michelberger Hotelの素性は知らずに泊まりに行きました。

ロビーのビンテージピアノと横置き古本達がかっこいい(石&木目基調の空間に合わせるかのよう)

不思議な魅力に満ちた、このホテル。深く知るにつれ、特筆したい点は沢山あるのですが3つにまとめました。

1)手段としてのホテルである。音楽関連の起業家でもある、創業者・オーナー夫婦が創りたいもの(コミュニティや社会活動など)を実現する為に、ホテルが存在している事。

2)前レポでも紹介した「低コストで、イケてる印象を演出できるブティックホテル的手法」に似ていながら、異なるデザインアプローチを成功させている事。

3)顧客属性は、年齢や収入レベル等のファクトベースでは考えず、特定のマインドオンリーをターゲットにしている事。

以下順を追って解説します。

1)クリエイター達による、クリエイター達のための場所

宿泊客にはミュージシャンが多く、ロビーで誰かがピアノを弾いている事も暫しある様(写真引用)

世の中の「不動産投資のリターンを得る・アセット価値を高める」手段のためにつくられるホテル達は、「ホテルで稼ごう→どんなコンセプトだと成功するだろう」というプロセスを経て出来上がります。一方でMichelberger Hotelの様にオーナー・創業者の夫婦(NadineTom Michelberger) が、「好きなプロジェクトを実現する場所」のためにつくられたホテルは、前者とは対照的なプロセスで構想が設計されていています。おそらく彼らは最初からホテルビジネスを営みたかったわけではなく、クリエイター達(特に音楽関連)のコミュニティをつくる最適な手段として、Michelberger Hotelをつくったのだと思います。

そこには「収益化の観点からは非合理的」でありながらも、ターゲット層がときめく、様々な仕掛けや取り組みが見られます。

中庭での座談会イベント(写真引用)

例えば「People」(ミュージシャン同士が自分の作曲を公表し合うプラットフォーム。フェスも開催。)のようなプロジェクトや、「Lift Off」(様々なクリエイターが社会課題について討議するラジオ・座談会)のようなムーブメントをMichelberger Hotelのコンテンツとして、TomとNadineは発信しています。そこで集まった人々が、ロビーや中庭でイベントを定期的に開催する事で、ホテルに出入するのは自然とクリエイターまたはクリエイティブ活動に関心がある人口となり、上手く客層がプロデュースされています。

中庭での音楽イベント(写真引用)

オーナー・創業者のやりたい事(ビジョン)が明確かつ、自身達が最前線に立って管理しているので、共用部のコンテンツや空間のデザイン性、バイブス(雰囲気)に一貫性が保たれています。

Michelberger Restaurant(写真引用)

ホテル直営のレストランは街のホットスポットでヘルシーなモダン・ヨーロピアン料理を提供していました。食材は、NadineとTomがドイツ郊外に所有しているMichelberger Farmから仕入れています。(レストラン、農業体験や宿もあるので、そこもいつか泊まってみたいです)

Michelberger Farmレストラン外装 (写真引用)
Michelberger Farmレストラン内装(写真引用)
勿論タトゥーのお兄ちゃんが農業体験している(写真引用)

私はFountain of Youthというオリジナルブランドのココナッツジュースがお気に入りで、買い溜めました。

Michelberger Hotelのカフェ(Fountain of Youthのキャラは濃い)

2)センスが最大のコストカット

Ian Schreger がプロデュースする系統のブティックホテル達は、大衆向けに誰がみても「お洒落」「豪華っぽい」印象に、Low Costで仕上がっています。マスウケなだけに、市場が大きくビジネスとしては超合理的です。業界は違いますが、ZARAの様なファストファッション的なアプローチに似ています。(詳しくはレポ【5】Mondrian をご参照ください)

一方でMichelbergerはマスウケではなく、「好きな人は好き」なデザインを貫き通しています。言い換えると「コストをかけずに重厚感や豪華さをどう生み出すか」という考え方ではなく、ターゲットにとっての「トキメキ」に焦点を当てたデザインだと思います。

手作り感が温かい収納やロングランプ(写真引用)
狭さすら可愛らしく感じてくる(写真引用)

2009年に開業し、ベルリンのデザイナーStudio Aisslingerが内装を手掛け、程よい脱力感と暖かさのある雰囲気でした。

ファミリールームはネットが貼られたロフト。物置の棚もネット。(写真引用)
家の中に家をつくってみたかったらしい。(写真引用)

因みにMichelbergerはターゲットを「クリエイター」に絞りぬいていると公言していますが、私は「クリエイター=芸術的で洒落た仕事をしている人」ではなく、創造的専門性を持った知的労働者全般だと考えています。

クリエイター達はむしろ、無理やり作り出された重厚感や豪華さよりも、インテリアの由緒に仕掛けられた発想の新鮮さに価値を見出すのだと思います。但しダーゲットではない・ときめかない人達にとっては「それ意味あるの?」という印象になってお終いなので、Michelbergerの市場は大きさはないけれど、彼等には十分なのかもしれません。

雑誌カバーで作られた「シャンデリア」(2018年のロビー)
雑誌が無造作に編みかごの中に放り込まれている。(2018年のロビー)

自分が泊まった翌年の2019年には、儲かったのかJohnathan Turkeyによるデザインのリニューアルがなされていて、更に面白い部屋が増え、マテリアルのグレード感もアップしているように見えました。(情報源はネット写真だけですが)

プライベートサウナ付きのお部屋(写真引用)
テラゾー柄で上品な空間に仕上がっている(写真引用)

3)マインドセットにアプローチするブランディング・マーケティング

一般的にホテルの顧客ターゲットは「出張、レジャー」などの用途や、「年齢層、収入レベル、国籍」などの顧客属性から入りますが、(恐らく)Michelbergerはそれをすっ飛ばして、クリエイティブ層というマインドセットだけを意識しています。バックパッカー用のバンクベッドスタイルの客室もあれば、個室サウナや二人入れるバスタブのある豪華な客室まで、ここまで価格帯がピンキリなホテルは本当珍しいです。

2021年再訪問時。泊まりはしなかったですが、老若男女な客層でした。

デジタルマーケーターが使う巷のマーケティングツールでは、「地域、年齢層、収入レベル、国籍」でターゲティングできても、マインドセットでは絞りきるのは難しいです。(マインドセットに繋がる顧客属性をMetaなり、Googleなり、AI界隈の方々が頑張ってくれていますが、マーケーターからすると精度は未だ高くない感触です。)つまりピュアにコンテンツ自体の発信力でターゲットのマインドセットにリーチするという、戦い方をしています。(Michelbergerは上手くやっている様なので、参入障壁は非常に高い事でしょう。)

当時バックパッカーをしていた若かりし自分の「支配人か企画担当者と会って話がしたい」というメールを大抵のホテルは無視していましたが、Michelbergerは心地よく受け入れ、惜しみなく担当者が数時間おしゃべりをしてくれたホテルでもありました。
Michelbergerの哲学に敬意あれば、誰でもウェルカムな自由さ、「Raw, Rebellious, Creative」と東ベルリンの魂がホテルに宿ったような場所でした。

謎のレイアウトでしたが、天井の高さもあり、Cozyな滞在でした。
実際狭いし一個でもデザイン要素が欠けていたら、成り立たなかったかも?
東ベルリン感が詰まったエントランス廊下

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