晩秋の日
北の秋は短い。
秋が早足に行進する中、世界でいちばん好きな場所に行ってきた。
暑寒別天売焼尻国定公園にある暑寒別岳。
もうかれこれ数十回は来ている。
たおやかな容姿と裾野に雨竜沼湿原を抱く彼女を
おれは某登山SNSでママと呼称していた。
毎回暑寒別岳ママ暑寒別岳ママと連呼していたらとある山で知らない人に
「ママの人ですよね?」
と言われたことがある。
ここにたどり着くまで様々な風景を見てきた。
密林に沈んだ寺院、白い石畳の街並み、砂の海、波濤押し寄せる南冥の島々、カリブに沈んだ太陽。
それらよりも愛おしき場所。
この地に初めて足を踏みいれた時の感覚を忘れることができない。
5年前、この稜線を歩きながら体も心も全てが緩やかにさらさらと流れ消失する感覚に囚われた。
生まれ変わったら雨竜沼湿原のウリュウコウホネになって暑寒別岳を眺めながら揺れていたい。
あるいはてんとう虫に生まれかわってお花の周りを飛び回ってチョウチョやトンボと遊んで暮らしたい。
その思いは今でも変わらないし機械仕掛けの神が目の前に現れたらそれを願うだろう。
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