このミステリーがすごい?と思えなかった『元彼からの遺言状』
今年から毎月1冊の感想をアップする!と誓ったものの、4月で2冊目。意志よわよわ。
そんな私なので「このミステリーがすごい!」大賞の作品に対して、偉そうなことは言える身分ではけっしてありません。
なのにタイトルがすでに上から目線ですが、嘘を書くのも嫌なので、正直に言います。「このミステリーがすごい?」率直な感想がこれでした。
設定だけ面白い
資産家の元彼が「自分の財産を犯人に譲る」との遺言を残して、謎の死を遂げる。
その後、犯人になりたいと志願する人が溢れ、遺産を巡って犯人選考会が開かれて、弁護士の彼女がその謎を解いていく。
そんな非現実的な設定が面白そうと読み始めました。
でも、読み終えてみると、その設定の面白さ以外に読み応えを感じる点がありませんでした。
これもミステリー?
ミステリーにもいろんなタイプがあるんだと思います。
『シャーロック ホームズ』みたいにトリックに凝った作品や、先日まで放送していたドラマ『天国と地獄』のように、登場人物を通して社会問題や人生の意味を考えさせるものなど。
私はミステリーを軸に、重厚な物語が綴られているものを期待してしまうタイプだから、『元彼からの〜』はまったく響きませんでした。
主人公の剣持麗子という字面どおりの性格の弁護士は、選考委員には強烈なキャラクターと好評だったのですが、
実際に1000万円以上稼ぐ若い女性なら、あんなふうにプロポーズにもらったカルティエのダイヤが小さくお別れするとか、高飛車な態度はよくあるだろうし。意外性はそんなになかったなあ。
どこかで聞いたことのある意外性
作者は弁護士だから弁護士事務所のヒエラルキーとか一般人には分からない知識で物語に厚みをもたせていたところは良かった点でした。
でも、ライバルの弁護士に「医師から集めた署名が書かれた書類」をみせて啖呵を切ったあとに、それが交渉のための嘘で本当はもらってなかったというくだりはドラマの『SUITS』にも同じようなものがあったような。
ネタバレなので書けませんが、殺人の動機も「それだけ?」って思うようなあっさりしたものだったので、
「まさか、このまま終わらないよな?」と思っていたら結末を迎えてしまった。そんな作品でした。
主人公以外にも、村山という個人事務所の弁護士のおじさんなど、もう少し人物像を見てみたい登場人物もいたのに、ひとりひとりが京のおばんざいぐらいあっさりと描かれていて、
トリックにつながるストーリーを展開させるための1ピースとしての存在価値しかないよう。登場人物に自分を重ねて涙するシーンももちろんありません。
悪いのは作者じゃない
これは、出版社やメディアも良くなかったんだでしょう。本が売れない時代なのもわかるが、過剰に宣伝したりするとおのずと期待値が上がる。それに伴わない作品だと、読者を余計にがっかりさせて、さらに本が売れなくなってしまうのでは?とさえ思うほどです。
話題づくりも重要だが、賞に値する作品がないなら、対象者なしにするのが読者にとって誠実ではないか。
無理に新しいものを発掘しなくても、これまで出版された名作を掘り起こせばいいじゃないか。
なので、次回は過去の名作を読んでみよう、と思わせる1冊でした。
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