くず男
由香は料理番組を見ていて、くず餅を作ろうと思った。「いつもはゼリーだけど、なんか、和の気分なのよね」さっそくスーパーへ行ってくず粉を買い求めた。本葛は150gで1,080円もする。やっぱり高いなあ……。ま、たまにはいいか。さっそく台所に立ち、レシピを見ながら開始した。
くず粉を分量の水に溶き鍋を火にかける。練り上げたくず餅をアルミのバットに入れ、冷蔵庫に入れた。30分後、冷蔵庫を開け、バットを取り出した由香は首を捻った。「真ん中に梅干しみたいなのがある……入れた覚えないんだけど?」
顔を近づけ目を凝らした。梅干しに見えたそれは、小さな裸形の男だった。体育座りをし、頭を膝の中に入れ、俯いている。「ひいい」恐怖のあまり由香はバットを落としてしまった。くずが床に散らばり、男が壁際まで転がった。
「あっ、ごめんなさい」思わず謝ってしまう。男は頭を打ったようで蹲っている。バンコランのように髪が長いのでもしかして女? と思ったが、付くものは付いている。慌てて目を逸らした。期待したが不安げに見上げたその表情は美形でもなんでもなかった。体つきは若いが目はどんよりと曇り、老人にもみえる。
長髪の奥の哀れっぽい眼差し。「一応人間だし、どうしよう……」見詰めているうちに由香に同情心が芽生えてきた。見捨てるのはかわいそうかな……飼ってあげようかしら。由香が思案しているとトイ・プードルのマロンが寄ってきた。「くぅん」
あ、餌を忘れていたわ。由香が目を離したすきに、マロンが男に跳びかかった。マロンの爪と牙に刺し貫かれ、声もたてずに男は絶命した。ばりばりと骨を砕きながらマロンは男を嚥み下した。