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「新装版 わたしが正義について語るなら」を読んで

 やなせたかしさんと言えば「アンパンマン」 

 子供が小さかった頃、散々お世話になった。
私自身は、学友が買ってきた「詩とメルヘン」の創刊号での出会いが最初。それから、美しい絵に惹かれていった。
 その著者が書いた「新装版 わたしが正義について語るなら」(発行所:㈱ポプラ社)を読んだ。 初版は2009年に出版されたようで、15年程前の本らしい。著者は、こんな本も書くんだな、とwikipediaをみたら、いろんなことをやってきた人だった。

心に沁みる

 本書は、著者が90歳の時に語った言葉がまとめられた本。90歳で見える景色なんて想像も出来ない。 が、もしも、その歳で生きていたら、どんなことを思うのだろう。 「正義について」なんて、考える余裕があるのだろうか。頭が働いてくれるんだろうか。90歳は未知の世界だ。

 「アンパンマン」で大成功した著者が、どんなことを語るのか、興味深々で読み始めた。
語り口のやさしさは、著者の人柄。その著者が、「悪者は最初から最後まで完全に悪いわけではありません」と言い切っている。この世には「必要悪」があるとも言っており、それが「バイキンマン」に繋がる発想だとか。 なるほど。確かに必要悪は存在する。歴史の徒花というか。

 功成り名を遂げた著者が、「一番になったことがない、とか、マンガの世界に入ってもみんなうまくて、ホントにダメ。人から下手くそと言われることはなかったけれど、(自分は秀でた才能がないこと)それはだいたい自分でわかります」と言い切っている。この自己肯定感の低さが、自らを客観視する視点を生み、謙虚に生きることの大切さを育てていったんじゃないだろうか。
 幼い頃に父親と死別し、弟が伯父の養子となる。その後、母親とも離れ、結局、弟のいる伯父の家に引き取られ育ったが、複雑な思いもあったろう。その弟は戦死してしまう。 理不尽な世の中を、グレずに生きて来られたのは伯父夫婦の愛情なのかも知れない。

 著者の語る話は、どれもこれも心に沁みる。あったかくて、懐かしい。 

それぞれの正義

 戦争や紛争問題で必ず出てくるのは、「それぞれの正義」っていう言葉。言うは易し、だけど、重たい。

 Web辞書によると、正義とは「人の道にかなっていて正しいこと」なんて書いてある。「人の道」ってどんな道なのか?これも辞書によれば、「人として生きていく上で、守るべき事柄。人として踏み行うべき道筋」なんだそう。

 結局、「人間社会で、共存していくためのルールを守って生きていくこと」とか、になるんだろうか。

 「正義」を考える時、「フェアトレード」って言葉を思い出す。
全く儲からない事業は慈善事業と言ったりするけど、主として公的サービスの役割。民間であれば、少しは儲けが欲しくなる。だけど、「少し」ってどれ位だろう。どの程度の儲けなら、適正と言われる範囲なんだろうか。 私から見れば、「少し」だけど、相手から見れば「そんなに」かも知れない。どれくらいが、適性・・・フェアのトレードになるんだろう。

「正義」だって、同じようなもの。
自分にとっての「正義」が、相手にとって「不義」になることもある。戦争や紛争等々の争いの元は、そんなところにある。

アンパンマンに込めた著者のメッセージは、
    「正義とは何か。傷つくことなしに正義は行えない」

                         (敬称略)

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