【読書】ジェイムズ・P・ホーガン/未踏の蒼穹
「星を継ぐ者」に始まる巨人たちの星シリーズを読んだのは高校か大学かその辺りです。そこからホーガンの作品はほぼ全部読みました。残念ながら未完のままとなった揺籃の星、黎明の星は手をつけず、です。最後が描かれていないのを読むのが辛くて。
さて、ここにきて新作が発表されてびっくり、思わず買ってしまったですが、老眼進み昨今、読書のペースが以前ほど上がらず、2週間ほどかかってようやく読了となったので感想を。
話ははるか未来のこと。太陽系で人間が暮らしているのは金星。金星人が地球に調査に訪れ、そこであるはずのない技術で作られた施設などを発見するがそれは実は…というものです。
ここまでほとんど帯に書かれているのでこの帯、書きすぎですね、ダメダメです。煽りすぎ、描きすぎ。
本書は後書きでも書かれているようにホーガン得意のトンデモ科学というか、実にそれらしいのですがあり得ない科学技術をそれらしく仕上げて読ませてくれます。
その辺りは目を瞑って読めばいいと思うんですよね、所詮小説だから。
ホーガンって?
ちなみにホーガン作品を知らない人に私からバイアスかかっているかもしれませんが、ホーガン作品ってどんなの?ってのを簡単に紹介します。
基本的にいくつかの共通点というかベースがあります。まずはすごい謎、科学技術。それを中心に話は進みます。そして登場人物。これがバリバリ科学系ではない人が主役になったりします。もちろんソフトなラブロマンスもあります。無視できないのが敵の存在。どんな世界、時代、環境でも敵の存在があります。彼らは往々にして政治的に危険な思想を持っていたりします。ホーガン作品はSFなのですが政治的な話も半分くらいあったりします。で、ここが肝心なのですが、話は基本ハッピーエンドなのです。読む人に嫌な気持ちを持たせず、未来に希望を持たせるようなそんなストーリーテラーなんです。
もっと引っ張れ〜という感想です
今回のお話はこれまでのホーガン作品の基本路線から外れることはありません。よくできる主人公、彼女、ややこしい敵、そして様々な発見。ストーリー展開もシンプルで、何気ない人物との会話からヒントを得て問題解決につなげるあたり、ホーガンあるあるです。まあでもちょっと物足りないかな。軽いんですな、話の決着の付け方が。
科学的なところや船、建物の描写は挿絵も何もないのでわかりにくいので勝手に想像して読むしかないのですが、(それがまあ小説の良いところですよね)、ちょっと読みにくかった、というか描ききれていなかったんじゃないかな、と思ったところがあります。それは映像的な表現をおそらく取り込もうとしていたのだと思うのですが、地球で戦争が激しくなっている頃の話、金星人たちが地球人たちに何が起きたかを発見する流れ、地球に一度帰り着いた(戦争から逃げ出していた)地球人たちの話が所々で交互に語られます。
試みは悪くないんです。臨場感もあって。でも登場人物が多く断片的で繋がりがない。途切れ途切れでつながらないんです。非常に残念なんです。もっと(スティーブンキングのようにここのストーリーを膨らませて)書き込んでもいいのになぁ、と。例えば金星人の誰かの血縁だとか、持っているものの持ち主だとか、なんでもいいんです、繋がりがほしかった。話のコンセプトがシンプルなだけにサイドストーリーを書き込めばそれこそ話に幅が出てもっと面白くなったんじゃないかな、と。
他にも本書の背景となっている金星の環境が分かりにくい。今金星はどんな環境なのか、もう少し描いて欲しかった。
それでも少し前に出た「火星の遺跡」は話があまり掘り下げられないどころか、謎はそのまま放置だったことを思えばライトな感じだったけれどまだよしとしましょう(^^;;
さて、タイトルの「未踏の蒼穹」、これをつけた人はすごい。話を読んでこういうタイトルを思いついたのでしょうか?原題「Echoes of an Alien Sky」とは全然違うけど、後半に出てくるあのあたりがタイトルのネタかな?と。タイトルの付け方ひとつで傑作のように思えてしまうのだから不思議です。
ところで、アマゾンの書評では本書、結構厳しいことを書かれてます。それを見ても好きな人は読むし、だったらいいやーって人は読まなくていいんです。確かに書いていることは当たっているところもあるけど、本を読むときの楽しみとか、読み終えたときの気持ちってそんな簡単なものじゃないって思うので。いかん、ちょっと本題から外れてしまいました。
もう亡くなってしまったので残念ですが、ホーガン作品はいまだに書店でよく売れているのでしょう。読んだことのない人はまずは「星を継ぐ者」を読んでみてください。古いけど名作です。
揺籃の星、黎明の星の続き、誰か完成させてくれないかなぁ…
おすすめ度:★★★(ホーガン作品としてはライト級です)