カッコイイ女とは。#2【完結】
鍋パーティー当日、私は通りがかりのケーキ屋さんでデザートを買って都と新宿駅で待ち合わせた。
もちろん10センチ以上のヒールを履いて、もちろん最小限の物が入る小さなバッグを持って、待ち合わせ場所である新宿駅西口に到着した私は少し外に出て振り返り、都いるかな、と駅全体を見渡した。
そこに、いたのである。
1週間も旅行が出来そうなほど大きなドラムバッグを斜めの肩掛けにして、今すぐ山にも登れそうなほど歩きやすそうなスニーカーを履いて、大都会新宿の巨大な駅すらただの背景にしてしまうほどの眩しい笑顔で、大きく私に手を振りながら「あっこ!」と大きな声で私を呼ぶ、その人。
都がいたのである。
「カッコイイ…!!」
衝撃的だった。
憧れや理想と思い込んでいた「都会の女たるもの」。
そんなものは一瞬でビル風が吹き飛ばし、代わりに都会の風の真ん中に都が立っていた。
絶対に都が今、全東京を歩いている女の中で、絶対一番カッコイイ…!
何故自分がそう感じているのかも分からないまま都に駆け寄って「お待たせ!」と言うと都は、「私も今来たとこやし!」と笑った。
サオの家に着くと都は肩掛けにしていたドラムバッグをドスン!と床に置いて、ビビビーっと横一直線に、勢いよくジッパーを全開にした。
なんだろう…と思って見ていると、なんと都はバッグの中から、ファミリータイプの「お鍋も出来るホットプレート」の土台を引っ張り出した。
続いて付属の鍋用プレートと蓋、丸めて結んだコンセントのコードまでもを次々と取り出した。
そんな事が出来るのはマジシャンかメリーポピンズくらいだと思っていた私は驚いて仰け反りながら都に
「お、お、お鍋あるよってそいういうお鍋?!」
と言うと都はキョトンとして
「普通やろ!うちで鍋する時いつもこれやで!」
と言った。
いやそりゃそうだろうけど、そういう事じゃなくて…とも言えずただ面喰っていた私の前で、また都は大きなドラムバッグに手を突っ込んで今度は1キロも入っていそうな鳥つくねの袋をドスン、と置いて、
「これこれ、お父さんが和歌山から送ってくれるやつなんやけど、これがホンマ美味いから!」
と言うといそいそと野菜の準備に取り掛かった。
大切な家族が送ってくれた美味しい物を、友人と分かち合いたい。
都が考えていたのはその一点だけだった。
荷物が増えるな、とか、重いだろうな、とか、運べるかな、とか、汗かいちゃうな、とか、お化粧落ちちゃうな、とか、ヒール履けないな、とか。そんな思考はないのだ。
サオと私が美味しいっていうだろうと想像して、今日の日を楽しみにすべてを準備して来ていた。
そりゃぁカッコイイよ。
新宿中の風を纏って手を振っているはずだよ。
都のカッコ良さは、愛だった。
サオが、出来立ての鳥つくねを頬張りながら
「美味しーい!」
と言って
「そやろ!どこのお店で食べても結局これが一番美味しいんよ!」
と都が満足そうに笑った。
この人達の友達として恥ずかしくない、カッコイイ女になろう。
密かにそんな事を考えてながら、私も絶品鳥つくねを頬張った。
「バイバイ」
「美味しかったね!」
「またやろうね!」
サオの家を出てまた都と一緒に新宿駅へ向かい、都とも別れた。
そして私は一人、靴屋へと歩き出す。
カッコイイ女とは。 おわり