ハーラン・エリスン 『愛なんてセックスの書き間違い』
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今年の5月に刊行されたハーラン・エリスンの初期短篇集です。訳者は若島正と渡辺佐智江。
国書刊行会SFが「未来の文学」と銘打ち、60〜80年代の幻のSF作品を集めてリリースしており、そのシリーズの1冊です。
とはいえ、内容は非SF作品に限定されています。解説によると、エリスンはSF作家として地位を確立する前、様々な媒体に多様な作品を発表していたそうです。そうした作品が集められているため、SFシリーズに入るのは異色ですが、作品の質とは関係ありません。
エリスンならではの畳みかける文体、過剰なほどことばを凝縮するような表現は全篇にわたって貫かれています。その圧力に圧倒されます。文章が上手いとかそういうフェイズではなく、とにかく、強い。
こういうヴォイスをもった作家はあまりいないような気がします。強いて言うと、トム・ジョーンズでしょうか。少しだけ近いにおいがする気がします。
『世界の中心で愛を叫んだけもの』を読んで僕はガツンとやられたのですが、当時はほかに訳書が出ていなくて残念に思った記憶があります。その後、2016年に『死の鳥』、2017年に『ヒトラーの描いた薔薇』が出ました。アンソロジー以外だと、本書を含めて4冊出ているようです。
エリスンはハッとさせるタイトルを生み出す能力が天才的です。『世界の中心で愛を叫んだけもの』とか『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』とか、すぐに目を奪われてしまいます(前者はエヴァンゲリオンでも使われていましたね)。
もちろんそれだけではなく、物語を生み出す手腕も秀でています。
本書だと、僕は『第四戒なし』でいきなりヤラれました。読み物としても、あっと驚く展開が待っていますが、全篇に流れる静謐な狂気と筆圧に一気に持っていかれました。
SF作家や推理小説家はともすると作家として一段下に見られがちですが、いやいや、そんなことはありません。エリソンほどの力とグルーヴを持った作家はそうはいません。
『読む』というより『読み殴られる』ような感触を味わえる一冊です。
だって、原題の“Love Ain't Nothing But Sex Misspelled”だけでもヤラれませんか?