世界79ヶ国の人たちに「お辞儀レッスン」をした話
ニューヨークでアメリカ人ビジネスパーソンに日本式名刺交換とお辞儀についてレッスンすることになった私。
(シュリケン投げのお話はこちら↓)
今回は、世界79ヶ国のビジネスパーソンにお辞儀レッスンをしたお話です。
まず本題に入る前に、パーソナルスペースについて少し触れておきます。
パーソナルスペース
グローバルビジネスでは、相手の文化や性別によって距離感に違いがあります。
そのため特に初対面の相手に対しては、ビジネスにおいてもある程度のパーソナルスペースを確保することについて、考慮しておいた方が良いと思います。
たとえば、初対面の相手と挨拶するときに、その相手と握手をした方が良いのか、一瞬迷ってしまうことがあります。
そういう時には手を出したり引っ込めたり躊躇して気まずい思いをするよりも、思い切って日本式にお辞儀をしてしまう、のは私はアリだと思います。
なぜなら、お辞儀をするためには一定のパーソナルスペースが必要となり、距離感を保ちつつ、相手に敬意を表していることがアピールできますし、その後、日本の文化を紹介するなど、会話のきっかけづくりになるからです。
多くの外国人ビジネスパーソンは、日本人は挨拶でお辞儀をすることを知っています。
また、「シュリケン投げ」エピソードで紹介した通り、私個人の経験では、実際にお辞儀をして見せてあげると感動する人さえもいます。
日本人にとっては生活に密着したお辞儀ですが、上半身を傾けて首を垂れるということ自体、不思議な動作に見えるようです。
さて本題に移ります。
世界79ヶ国の人たちにお辞儀レッスン
ある日突然、パリに行ってきてくれる?と業務命令が出て以来、多い時は1週間で5か国訪問したり、地球を半周したりなどが当たり前の海外出張生活に突入しました。
そんな強行スケジュールの中でも、世界中のビジネスパートナーと交流する年2回のカンファレンス(大規模な会議)を、私は特別楽しみにしていました。
なぜならこのカンファレンスは、毎年、開催都市が変わり、世界79ヶ国から集まった参加者全員と必ず交流できるのです。
しかも、日本人は私だけという物珍しさ(?)も手伝って、毎回たくさんの新しい人との繋がりを作ることができました。
カンファレンスでは、「異文化交流」を題材にした講義やロールプレイがあります。
このような講義では、国によるビジネスの考え方や相手の立場に立った物事のとらえ方、ビジネスエチケットなどを学びました。
あれは確かベルリンで、200人が参加したカンファレンス。
先に挙げた「パーソナルスペースと挨拶」に関する講義中でした。
スペインのバルセロナオフィスから来た講師のイアン(イギリス人)が突然立ち上がり、こう言いました。
「じゃこれから、みなさんの国はどんな挨拶をするのか、グループ分けを行います。
握手はAグループ、ハグはBグループ、キスはCグループ、何もしないはDグループ。
はい分かれて!」
わさわさと移動して、それぞれのグループに散らばって行く人たち。
「あの~、握手もハグもする人はどっちですか?」
などの質問を華麗にさばきながら、ステージの上から時計を見て移動にストップをかけるイアン。
キレイに4つに分かれましたね、私以外。
(えっ、他のアジアの国の人もお辞儀するんじゃないの?)
移動できず、会場のド真ん中にひとり立ち尽くす私。
「あれ?akkieどうした?」
「あの~、私の国はお辞儀なんで、どこにも入らないんですよね・・。」
するとイアンが
「ごめん、そうだったね。良かったら、お辞儀やって見せてくれない?
たしか、ニューヨークでお辞儀レッスンやったんだよね?
バルセロナのオフィスでも噂になってるから、この場で披露してくれないかな?」
「あっ、それシンガポールでも聞いてる!私も見たいな~♪」
会場の向こうの方から声が上がる。
口コミ恐るべし。
どうやら、ニューヨークで日本式の挨拶レッスンを受けた彼らたちが、その後あちこちの国に出張するたびに「お辞儀Amazing体験」を自慢してるらしいのです。
そんなことになっていたとは露知らず、だけどなんだか嬉しくなって、
「あっ、いいですよ。」
と軽く返事をすると、
「ありがとう、 akkie。
では、さっそくステージにどうぞ!みなさん拍手でお迎えください。」
と、ステージに呼ばれる私。
(えっ?お辞儀するだけなんですけど・・。)
コトがどんどん大げさになっていきそうな予感がします。
みんなが見つめる中、ステージに向かいました。
イアンからのインタビューが始まりました。
「あらためまして日本から参加のakkieです!
akkie、日本では握手やハグやキスなどの挨拶はしないのですか?」
「はい、日本ではお辞儀が主流です。
握手をすることもありますが、ビジネスでは日本人同士でハグをする人はほとんどいないと思います。
ましてやキスは・・少なくとも私は見たことがありません。」
会場がざわつく。
握手もハグもキスも、相手の身体に触れるスキンシップの挨拶です。
スキンシップのないお辞儀という挨拶に、さぞ違和感を感じたことでしょう。
つづけて私はこう説明しました。
「お辞儀には大きく分けて3つあります。
私たち日本人は、この3つのお辞儀を、カジュアルな挨拶やフォーマルな挨拶、謝罪などシチュエーションによって使い分けます。
この3つは、上半身を曲げる角度(15度、45度、90度)に違いがあります。」
200人が私の話を真剣に聞いてくれています。
イアンも深くうなずいています。
「ほぅ、なるほど。知りませんでした。
お辞儀には種類があるのですね。何と奥深い文化なんでしょう。
では、実際にその3つのお辞儀を見せていただけますか?」
私は、ステージの上から、「会釈」「敬礼」「最敬礼」の3つのお辞儀をやってみせました。
おーっ!
会場からどよめきと拍手喝采が・・。
イアンが右手を左胸に当てて、こう言いました。
「みなさん、私はなんだか感動しています。
相手と直接触れ合わなくても、上半身を傾けることで、親しみを示したり、敬意を払うことができるのですね。
akkieありがとう。みなさん質問はありますか?」
お辞儀で人に感動を与えられたことに、私も感動しています。
「頭を下げた時の目線はどこにやるといいの?(やはり目線は気になるようです)」
「手はどうすればいいの?」
「頭を下げた後、何秒間待ってるの?」
「頭を上げた後は微笑むの?」
「男性と女性はお辞儀のやり方は同じなの?」
「映画を観た時にサムライが地面に座って頭を下げてたけど、あれもお辞儀なの?(土下座のことだと思われます)」
日本人ではあまり思いつかないようなクリエイティブな質問が矢継ぎ早に飛んできます。
質問にひと通り回答したところで、終了!
と思いきや、会場から誰かが
「僕らもやってみたい!」
ということで、ここでも「お辞儀レッスン」をすることになりました。
私も2回目なので前回よりは少しは要領を得ており、2人ペアになってお辞儀をし合う、などというアイディアも浮かび、実際にやってもらいました。
200人がペアになって100組。
大勢が向き合ってお辞儀をし合う様子をステージ上から眺めると、かなり異様な光景ですが、嬉しくもありました。
私はステージを降りて、ぎこちないお辞儀をするペアに直接アドバイス。
(ほとんどのペアがぎこちなかったですが)
ぎこちなさは残るものの、まあまあ形になってきたところでレッスン終了。
せっかくなので、レッスン後の感想も聞いてみると、
● 自分が丁寧に扱ってもらっている気がする
● 礼儀正しく素晴らしい習慣だ!
● なんて美しい仕草なんだ!
● たしかにAmazingな体験だ!
● 敬意を示す動作としてとても分かりやすい
などと、とても喜んでもらえました。
私も日本人として誇らしい気分になりました。
この経験を通じて、お辞儀は、距離感を測りかねる外国人との間では相手を尊重しつつも、パーソナルスペースを上手に確保する、とても良い方法であることに気づきました。
距離感が分からないまま、無理に相手の国に合わせた挨拶をする必要はないんです。
分からなければお辞儀でいいんです!
あなたも機会があれば、お辞儀、是非やって見せてあげてください。
次回からは、「世界の挨拶3点セット(握手・ハグ・キス)」について、順番にお話していきます。(各お作法へのショートカットはこちら↓)
⚫︎ 握手の「お作法」
⚫︎ ハグの「お作法」
⚫︎ キスの「お作法」(理論編)