「空想の海」深緑野分著
第一に、深緑さんてなんでも書く方なんだなあと。同じ著者の本を読むのはこれで3冊目、読むごとに驚きが増すと言いますか。ミステリーが軸になる作品が多い印象でありつつ、「空へ昇る」なんかは淡々としながらも、ごりっとしたSF風味だったりします(土塊が空へ昇る現象が起きる世の中について淡々と綴られるお話です)。
「イースター・エッグに惑う春」も謎を追う内容です。学校を舞台にしていることと、そして卵つながりということもあり、なんだか若者が主人公であった「戦場のコックたち」を思い出すのですよね。そうなのです。他の著作を彷彿とさせるようなしかけが散りばめられている短編集です。
紙の「本」や「読書」にまつわる作品もいくつか収録されており、本を愛する方におすすめします。本狂いな主人公が、怪異と対決する形で作中作を登場させるという「本泥棒を呪う者は」など、垂涎ではないでしょうか。そしてこのスピンオフ短編を読んだ私は、次に読む深緑作品は、本編である「この本を盗む者は」に決まりだな、なんて思ったりするわけです。わくわく。
「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」も同作品のスピンオフにあたるようで、最近140字小説にトライすることが増えたのですが、なんか破壊力すごすぎてびっくりしました。
「贈り物」「カドクラさん」は戦争の話です。「贈り物」はミステリータッチではらはらするお話。「カドクラさん」は近未来というかあるいは現代で起き得た戦時のお話です。実は直近で自分でもそういう内容の話を書いてみたので、やっぱりそういう内容を書きたくなる世情なのかな、とかおこがましくも思ったり。しかし「カドクラさん」の発表は2019年なんですよね。たった今のこの空気の中で読んでひりひりする内容を、五年前にすでに書かれていたのは、普段から先の戦争周辺のお話を書かれているわけだから、ごく当然なことなのかなと。だから思いつきでも付け焼き刃でもない、甘さのない、刺さる内容になるのだろう。
私は深緑さんの旧ツイッターが大好きでして。彼女はずっと何かを考え続けている。きっと延々と物語をくゆらせている。それで紡がれる濃厚な物語に、惚れ惚れします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?