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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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2023年11月の記事一覧

ファミリーカーの広告で「家族」という言葉を使わないこと

大手広告代理店(おそらく電通)のクリエイター・笛美さんの著書『ぜんぶ運命だったんかい(おじさん社会と女子の一生)』を読み、広告制作現場の懐かしい既視感に襲われた。 ぼくも10年以上前、その渦中にいた。 本書は、過重労働と男尊女卑社会に疑問を抱き、フェミニズムに目覚める経緯が克明に描かれている。ぼくも当時抱いていた違和感がていねいに言語化されているので、随所で膝を打ちたい気分にとらわれた。 そしてやがて、数年前に自動車メーカーの広告制作に関わったときのことを思い出していた。

美しい紅葉が訪れ、長い冬がくる

その午後、ぼくはいつものようにテーブルで仕事をしている。 同じリビングルームで、妻のみみさんはコンサートの御礼状を書いている。 いつになくぼくは仕事がはかどり、陽が傾きはじめたころに二人分の珈琲を淹れ、焼菓子を一緒につまむ。ぼくはプリンタで御礼状の住所を一枚ずつ印刷する。 その葉書が出来上がると、記念切手を買いに郵便局まで一緒に歩く。 郵便局はひどく混んでいたため、ぼくは一人で図書館に本を返しにいき、無印良品でデカフェ珈琲豆を買って戻ってくる。ちょうど切手を買い終えたみみ

君の声を聴きながら

親の人生を奪ってしまった。と君はいった。 もし私を産んでいなかったら、親はもっと違う人生を歩めたはずなのに。と。 親は子どものために、時間もお金も労力も気力も費やし、懸命に育てる。うまくいかないことも、うまくいったことも含め、子どもはやはり恩を受けている。 恩をもらったなら、いったん預かることにしよう。 そして、恩をつなごう。 親に恩を返すのもよいけれど、次の世代の誰かに恩を受け渡すのでもよい。 力不足でも仕方ない。持てる力で、恩をつなごう。 子どもは、親の世代を超えて