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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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2023年9月の記事一覧

四半世紀ぶりのグッド・ウィル・ハンティング

細かな内容は忘れていた。 妻が「人生で3本の映画に入る」という映画が『グッド・ウィル・ハンティング』だった。四半世紀前の映画を、久しぶりに見返した。 「大きな事件めいたことは何も起きず、主人公の心の中の変化を2時間かけてていねいに追う映画」と妻のいうとおり、心理療法の過程を丹念に描く、少々風変わりな映画と言えた。 「この映画は“痛み”についての話なの。どの人物にも等しく痛みが描かれていて、どの人物にも共感ポイントがある」と妻がいう。 (以下ネタバレを含みます) 主な登

失敗を恐れないとは、損失を恐れないこと

先月ね、資金調達ラウンドで大型の増資ができて命拾いしたんですよ。万が一逃してたら、今月でキャッシュアウトしてましたからね。 取引先のベンチャー企業の取締役が、雑談まじりに笑って話す。 そんな、のるかそるかのような綱渡りだったことはまるで知らなかった。 彼は大手企業から引き抜かれて、ベンチャーで働いている。元の企業に在籍していたら、経験しなくても済んだような苦労を買って出ているようにも見受けられる。転職を後悔していないのだろうか、と思うけれど、そんな質問は憚られる。(むしろ愚

身近な友人5人の性格が、その人の本当の性格

月に一度くらいの頻度で、新婚の妻をぼくの友人に紹介している。 ぼくらは結婚式も披露宴もしていないので、個別にささやかな顔見せの場を設けている。 昨日も、幼馴染の友人夫妻と昼食をともにした。 学生時代の写真を持ってきてくれて、懐かしい思い出話に花が咲いた。 こんな話も妻には知っておいてほしいと思ったし、ぼく以外の視点から語られるぼくについての話も聞いてほしいと思っていた。 よく「一番身近な友人5人の年収の平均が、その人の稼ぎ」と言われるけれど、それに倣うなら「身近な友人5人

夫婦で歳をとるということ

妻のみみさんのポートレート写真を撮りに、近所の公園へ出かけた。 コンサートのプロフィール写真用の、いわゆるアー写(アーティスト写真)だ。 本来ならば、プロカメラマンに依頼してスタジオで撮影するものだけれど、最近は屋外でスナップのように撮られたものも珍しくなく、比較的自由な形式でいいという話になったので、試しにぼくが撮ってみようかと思い立った。 ぼくはもちろん、プロカメラマンではないので技術的な裏付けはない。 機材はミラーレスカメラとパンケーキレンズだけで、レフ板もライティ

家事分担を決め事にせずにいられたら

諍いのきっかけは、家事分担だった。 妻が仕事から帰宅すると空腹を満たそうと、いそいそと夕飯を作り出す。ぼくも手伝うことを促される。 もちろん一緒に料理をすることはやぶさかでない(むしろ一緒に料理をしたいと思っている)。しかし、日によってぼくは空腹でもなく、食事はもう少し後でよいと思っていたりする。 妻は、サーカディアン・リズムに基づき、夕食は18時か19時には摂るのが望ましいと主張する。それが「時間栄養学」に依拠した「健康」の秘訣であると説く。ぼくにはいささか教条主義的

生活は、飽くなき回転体

ふたり暮らしを始めて気づいたことは、生活は回るということ。 衣類は、箪笥から、ぼくらの袖を通して、洗濯機に、物干し竿から、畳まれて箪笥に。 食糧は、店先から、うちの食品棚に、ぼくらの胃袋を通って排泄物に。 住居には、用具が収まり、活用されて掃除し、ゴミに出されて埋立地に。 図書館の本は、うちに移され、脳内に収まり、やがて返却される。 ひとところに、とどまらない。 お金も回る。情報も回る。掃除も回る。時計も回る。 エネルギーも回る。気温も回る。地球も回る。血液も回