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小説『明鏡の惑い』第十五章「筆記体」紹介文
悠太郎は階段を昇っている。高原の中学校の階段を、2階から3階へと昇っている。
そうして昇りながら、入学以来の3ヶ月のことを思い出している。
エメラルドグリーンのジャージのことで、同級生から受けた嫌がらせ。
登校時に国道の急な下り坂で、自転車を転倒させたこと。
通りかかった留夏子先輩がくれた『重力と恩寵』からの言葉。
笑い上戸のペトラや、ブチ公、ジョルジョといった留夏子の同級生たち。
モアイのような埴谷先生をはじめとする、あまりにも個性豊かな先生たち。
そんな環境のなかで悠太郎は、勉学にも校庭の走り込みにも励み、音楽を愛した。
シューベルトの歌曲〈水面で歌う〉を聴いた悠太郎は、照月湖を思う。
黒岩支配人の奇策によって、湖畔の遊歩道はランニングコースとして整備され、レストラン照月湖ガーデンはインド・ネパール料理店に様変わりしていた。
すべては変わってゆく。俺はこれからどうなるのか。3階の音楽室で、あの人はなぜ俺を呼ぶのか――。
この奇妙なドラマの台本は誰が書いているのか――。