赤津龍之介

浅間山の北麓にあった照月湖を舞台とする長篇小説『明鏡の惑い』を、アルファポリスにて公開しています。次回作に向けて、作曲家カール・レーヴェに関することを調べています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/703314535/113741973

赤津龍之介

浅間山の北麓にあった照月湖を舞台とする長篇小説『明鏡の惑い』を、アルファポリスにて公開しています。次回作に向けて、作曲家カール・レーヴェに関することを調べています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/703314535/113741973

最近の記事

故郷への問い(『明鏡の惑い』から『鳴り響く獅子座のアルファ』へ)

 12月1日の文学フリマ東京39で頒布される文芸誌『ホーレン』(せ-18)に、小説『鳴り響く獅子座のアルファ』第一章「故郷を離れて」を寄稿しました。  本作の主人公は、19世紀ドイツの作曲家カール・レーヴェです。レーヴェの職業のひとつはギムナジウム教師でしたから、彼はプロイセン王国の国家公務員でした。プロイセン王国や王家を讃美する音楽を書いたことは、彼の任務から見て当然のことだったでしょう。しかし一方で、レーヴェがゲーテに私淑していたという事実を見逃すわけにはゆきません。ゲ

    • 小説『鳴り響く獅子座のアルファ』発表開始!

       12月1日の文学フリマ東京39で頒布される文芸誌『ホーレン』(せ-18)に、小説『鳴り響く獅子座のアルファ』第一章「故郷を離れて」を寄稿しました。  拙作『鳴り響く獅子座のアルファ』の主人公は、19世紀ドイツの作曲家カール・レーヴェです。レーヴェは物語的な独唱曲であるバラードの分野で成功を収めた作曲家ですが、その知名度は音楽史のなかで必ずしも高くありません。レーヴェは幅広い音域を持った美声の声楽家であり、教会のオルガン演奏で鍛えた超絶技巧を有するピアニストでした。彼は自作

      • 続・照月湖の詩と真実(『明鏡の惑い』を読む人のために)

         群馬県吾妻郡長野原町大字北軽井沢に実在した人造湖「照月湖」は、令和元年東日本台風によって消滅しました。消滅5周年を記念する試みのひとつとして、照月湖を舞台とした拙作『明鏡の惑い』について解説します。とはいえ61万字の大作ですから、あれもこれも語ろうとすれば収拾がつかなくなります。どうにかまとまりをつけるために、この作品について書かれたふたつの短文をもとにして要点を述べます。  その短文のひとつは、アルファポリスに同作品を掲載する際に私自身が書いた「内容」の紹介です。 こ

        • 照月湖の詩と真実(消滅5周年を記念して)

           少佐の未帰還を告げられたヴァイオレット・エヴァーガーデンでさえ、照月湖の消滅を知ったときの私ほどには取り乱さなかった。2019年10月の台風19号が去ってひと月ほど後、私はSNSでそれを知ったのである。湖の近くで暮らす家族から情報はもたらされなかった。その情報が私に与えるであろう衝撃の強さを恐れて、家族は伝えることを控えたのだという。  当時の私は照月湖を主要な舞台とする長篇小説『明鏡の惑い』の序盤を書いていた。実在した湖畔の観光ホテルはなくなって久しかったが、それでも照

          ブリーシンガ・メン随想

           菅原邦城の『概説 北欧神話』(ちくま学芸文庫 2024年)を読んだ。オリジナルの刊行は1984年だというから、40年を経ての文庫化である。解説によれば本書は、本邦における北欧神話研究の水準を高めた名著であったという。北欧に関心を持たざるを得ない境遇にある私にとって、この文庫版が出たことはありがたかった。  なぜ私は北欧に関心を持たざるを得ないのか? それは作曲家カール・レーヴェを主人公とする小説『鳴り響く獅子座のアルファ』を、無謀にも書き始めてしまったからである。レーヴェ

          ブリーシンガ・メン随想

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十四章「歳月の灰」より

          ペンキ屋さんを雇わなくちゃいけませんね 馬鹿を言うじゃねえ。塗るったっておめえ、ペンキ屋が塗るんじゃねえ、俺たちが自分で塗るんだものを。命綱なんざねえからな。    それでもやっぱり美しいですね、ぼくらの湖畔は    そうともよ。腐っても鯛というが、濁っても照月湖よ  湖を一周する遊歩道は、本当に二キロもあるかしら?  話半分としても一キロか サカエさんの奇策なら奇岩作戦ですね。    ユウくん、あんた鼓笛隊の楽器はどうするつもりだい?    ユウちゃん、指揮、一緒に

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十四章「歳月の灰」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十三章「暗い道」より

          オオルリは幸福の青い鳥です。今日この緑萌える五月のよき日に、青い鳥を見たあなた方の行く道は明るいでしょう    俺たちの行くところでも毒ガスが出たりしてな  いいかおまえたち、しっかりと俺の話を聞けよ。割合はわりあい難しいぞ 世界は終わらねえんだんべやあ! 世界は続いていくんだんべやあ!    痛え! 栗の毬が指にぶっさ刺さった!  どうだユウ、プレステはリアルだんべえ! ごめんなユウくん、帰っとくれ! うちの直矢は遊んでばかりで勉強をしない馬鹿だから、ユウくんは

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十三章「暗い道」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十二章「人の望み」より

          ウッフフ、今年も来たねえ、電力さんからの貢ぎ物が    イラッサイマッセ    ラッサイマッセ  ユウくん、これおうちの人と食べて。これは雪化粧、あたし厚化粧。あっはっは 義を見てせざるは勇なきなり!    面白そう。〈この悲嘆の嵐のすべては無駄ではない〉って、いい言葉だね  ぼくの願い事? ぼくの願い事か……。果たしてそんなものがあるのかな 自分の願い事が欲しいっていうのが、私たちの願い事    ゲームスタート時点の皇帝の第一皇子が、七人の英雄のひとりにやられ

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十二章「人の望み」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十一章「濁り水」より

          どうして美帆さんはぼくにあんなことを要求したのだろう    人間の価値なんちゅうものは、頭の強さと体の強さのふたつに尽きる。  そうしておまえの父親から受け継いだ悪魔の性質を、根絶やしにするんだよ。 真壁! 引き手がなってない!    動くことによって、動くことのなかで行なわれる直観があるんだ。  ずっと力を入れていることが、努力することだと思っていました 力を入れることと同じくらい、力を抜くことも大切だ。その点は音楽とよく似ているな    真壁、あなた、あれが

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十一章「濁り水」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十章「星めぐり」より

          皆さんいい顔ですよ。人間は空を見上げると喉が突っ張ります。口を閉じておこうとしても顎の筋肉が疲れますから、どうしてもおのずと口が開いてきます。そうしていつしか馬鹿のようにぽかんと口を開けています。それが今の皆さんです    でもこの六里ヶ原の星空は、馬鹿のようにぽかんと口を開けてでも見上げるべきものです。  もし皆さんのうちの誰かが将来詩人や小説家になったら、名もなき花が咲いていたなどと間違っても書いてはいけませんよ。名前のない花はないんです。せめて名も知らぬ花と書いてく

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第十章「星めぐり」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第九章「左手の小指」より

          おおユウくん、お稽古は順調かい?    ロング・ロング・アゴーかい。  長い長い顎ー! 人は年を重ねれば重ねるほど、生きてきた過去は長く分厚くなる。    いやあ感慨無量ですなあ。悠太郎くんがこの明鏡閣でピアノのお稽古ですか。  秀子さん、ユウくんはこの分でいけば、今に女の子にもてますね ユウちゃんは今に作曲をするよ。あたしがあげる紙にオタマジャクシを書くよ。ダ・ダ・ダ・ダーンてなもんだ    結局のところ作曲をする  この田舎でも男の子がこういうことを習うと

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第九章「左手の小指」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第八章「湖の騎士」より

          ユウ、よく来たな。今日もひとりなのか?    動物であれ植物であれ、自然を観察するのは面白い。  いずれはユウにも漕ぎ方を教えてやろう。いろいろな漕ぎ方があるからな これはねえ、うんと珍しいお茶だよ。唐の国のお茶だよ。飲んでおゆき    おふたりとも引っ掛かったわね。ロクちゃんが言うのは、お茶菓子のない空っ茶ってことよ  ユウちゃんは絵を描くのが好きか? それとも字を書くのが好きか? まあそんなことはどっちでもええ。どっちでもええし、どっちもええ。 いっときでも直

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第八章「湖の騎士」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第七章「薄い夢」より

          何だろう、この淋しさと虚しさは何だろう    いいかてめえら、野球部に入ったらこの俺がしごいてやるぞ! 俺の言うように挨拶をしてみろ! しやーす! したー! オラオラ、さっさとやってみろ、この野郎!  心のふるさと六里ヶ原? この歌詞を書いた奴はいったい何をほざいているのだ? 気をつけろ悠太郎、ウルシの樹の下ではちゃんと傘を差すんだぞ。さもないと、かぶれて痒くなるぞ    まったく六里ヶ原はランナーの天国だなあ!  畑でコンフリーができたよ。ユウちゃんはコンフリーが

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第七章「薄い夢」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第六章「細波」より

          そこが浅間観光の普通じゃないところなのよ。雨が漏ろうが猫が漏ろうが、そういうものとして愛される。    わが浅間観光は永久に不滅です!  あちらのホテルはこちらと全然違いましてね、断然高級志向でしたよ。 そういえば旧ホテルで使っていた銀食器、どこへ行ったのかしらねえ いつの間にかナイフやフォークがひとつまたひとつと、だんだん減っていったそうです    建物は古くなるし、始まったことは終わってゆく。いやはや時勢だのう。  照月湖の樹氷まつり、夢幻のごとくなり うちの

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第六章「細波」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第五章「野鳥と鳥籠」より

          まあず豪儀なもんだ   炭焼きが必要なくなるなんて、あの頃は思いもしませんでしたよ  まあずあの日は寒かった まあずあの日は暑かった    おのれインテリどもめ、学のねえ俺をコケにしおって。今に見ておれ、今に見ておれ……  実に秋晴れのこのよき日は、われらが浅間観光の歴史に残る輝かしい日となりましょう。 グルービング工法ちゅうやつさ    われらが湖畔は実に美しい  平成  一年  十月 テレビの観すぎ!    ユウちゃんはどんな死因で死にたい?  これ

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第五章「野鳥と鳥籠」より

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第四章「白詰草の冠」より

          なんという今の美しさだろう    オートバイといえば、あれを思い出すのう    ああ、浅間牧場のレースのことね?  来年また浅間で会おう この景気のよさはどうだ。この豊かさはどうだ。    私がお母さんのピアノや神様のお話を聞きたがると、お父さんはひどいことをするの  てんにましますかみさま、かいたくのたみをおゆるしください。ろくりがはらのたみをおゆるしください。 ルカちゃん綺麗。花嫁さんみたい    ユウちゃん、また来るから。泣かないの、また会えるから  じ

          【台詞集】小説『明鏡の惑い』第四章「白詰草の冠」より