息をするように本を読む 12 〜和田竜「村上海賊の娘」
海賊というと、古い地図を手に宝探しとか、肩にオウムを乗せて眼帯をした船長とか、帆柱にはためくドクロの黒旗とかが思い浮かぶだろうか。
それとも、長期連載中のあの大人気少年漫画を連想する人もいるかもしれない。
日本にもかつて海賊がいた。
島国日本では、漁業や船を使った輸送業など海で生きる者達が古くからたくさんいた。
人間が多く集まれば、お互い利害が生まれ、争いになる。生きるため悪事に走り、船や浜の村を襲う者もいる。
そんな中で、より強い者が次々に仲間を増やし、従え、統率し、やがて強大な力を持つ集団が出現する。
彼らは当然ながら海を知り尽くし、船の扱いにも長けている。もちろん武勇にも優れている。
中世から戦国時代にかけ、あちこちの日本近海で勢力を持っていたこのような集団を、海賊、後に水軍と呼ぶ。
彼らは自分たちのテリトリーに関所を設け、そこを行き来する船から帆別銭という通行料を徴収していた。代わりに安全な航行を保証し、他の海賊達から警護してやったりもしていた。
その海での機動力を請われて、武士たちの戦に参加することもあった。
戦国時代になり、大名に仕える海賊が増える中、独立を保っていたある海賊集団があった。
瀬戸内海で勇名を轟かせていた村上海賊。その三家の内のひとつ、能島村上家は、怜悧にして豪胆、勇猛な当主、村上武吉の下、絶大な力を誇っていた。
その娘、景がこの小説のヒロイン(?)である。
その頃、天下統一を目指す織田に兵糧攻めにあっていた大坂本願寺が毛利に助力を求め、その毛利が村上海賊に協力を頼んだことから、物語は始まる。
景は、能島村上の当主の娘ということで、とりあえずは、姫と呼ばれている。
が、従来の戦国時代の姫とはかなり趣を異にする。
男まさり? ジャジャ馬?
そんな甘いものではない。
粗暴乱暴、がさつで、口は悪く、年増(あくまで当時の基準です)で、酒呑みで、しかも稀代の醜女(あくまでも個人の感想です)。そのくせ面食い。おまけに、失礼ながら、少々、馬鹿である。
しかし、現頭領の武吉の血を最も濃く受け継いでいる(頭脳以外は)と言われ、めちゃくちゃ強い。とにかく強い。
そして、天衣無縫、単純で可愛らしいところもある。
人の生命が、今よりもずっと軽く扱われていた戦国時代。
ちょっとどうなのかと言うほど人が死ぬ。ともすれば殺伐とした話になりがちなのだが、この景のあっけらかんとした無邪気さが救いになって、暗さはなく、ところどころクスクス笑えて、しかも胸がすくような痛快な物語だ。
大坂の本願寺を巡る木津川の合戦、それから瀬戸内海での船戦、手に汗を握る激戦が続く。
村上水軍には古くから伝わる必勝技があり、「鬼手」と呼ばれている。
絶対必勝の手なのだが、敵味方あまりに死人が出る危険な技なので今は封印されており、知る者は少ない。
その技とはいったいどんなものなのか、果たしてこの戦で「鬼手」は出るのか。
遥か昔、瀬戸内の海を自分の庭のように駆け廻り、思うままに自分の望む人生を生きた景に、少しだけ憧れる。
和田竜作品は「のぼうの城」「忍びの国」が映画化されている。
この作品も映画化されたら、さぞや、と思うが、やっぱり何だか惜しい気がしてしまう。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
海賊の娘、景との出会いに深く感謝する。
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