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息をするように本を読む127〜田島征彦「じごくのそうべえ」〜
娘らが小さい頃、寝る前には必ず絵本の読み聞かせをしていた。
疲れているときや、ことのほか眠いときは、勘弁してくれよー、とか思ったこともあったけど、今から考えると得難い楽しい時間だった。
それに、子どもに読むことがなければ、出会えていない絵本もたくさんあった。
この本「じごくのそうべえ」も、その中のひとつだ。
何やらおどろおどろしいタイトル。
怖い話?、これを子どもに読み聞かせするの?、と思われてしまうかもしれないが。
実はこの絵本は「地獄八景亡者戯」(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)という上方落語が下敷きになっていて、怖いというより、とっても面白いのだ。
「地獄八景〜」は、古くは江戸時代にまで起源を遡ることができる演目らしいが、現代上方落語として甦らせ、自分の十八番として完成させたのは、人間国宝、故3代目桂米朝だ。
現在では、桂一門でこの噺を得意にしている噺家も多くいる。
実際に全編をやると1時間を超える大作らしいが、一部だけが演じられたり、演者によっては時事ネタや身内ネタを盛り込んだり、いろいろと工夫を凝らして独自色を出す、そんなこともできる、いかにも関西らしい作品だ。
絵本の話に戻る。
著者の田島征彦氏がこの絵本を書いたきっかけは、児童文学者の中川正文氏に「地獄を描いた子ども向けの絵本を描いてみて欲しい」と言われ、編集者が集めてきた全国各地の地獄を扱った民話等の中に落語「地獄八景〜」によく似た話を見つけたことから、らしい。それが縁で米朝師匠の落語をテープが擦り切れるほど聞いて笑い転げながら、この本を書いたと著者インタビューで読んだ。
物語の登場人物は、軽業師のそうべえ、歯抜き師のしかい、医者のちくあん、山伏のふっかい。
それぞれに事情があって、現世に別れを告げ、あの世へとやってくる。
地獄行きの超特急火車に乗って、到着した三途の川のほとり正塚で奪衣婆に着物を取り上げられ、褌一丁で赤鬼や青鬼の漕ぐ船で川を渡り、4人は閻魔大王に対面する。
亡者の生前の行いが良いこともわるいことも余すことなく映し出されるという浄玻璃の鏡を背に、閻魔大王は少々しょぼくれている。
「今日は、死んだもんの数が多いなあ。わしも少し疲れてきたわい」
今日はもう、このへんでええやろ、と、この4人を地獄に送った後は残りは適当に極楽に送ってしまえと、指図する。
そんな殺生な、なんでわしらだけ、という4人のクレーム(?)が受け入れられるわけもなく、そのまま、鬼たちに連れて行かれた先は…。
上方落語が元ネタということで、語りは全て関西弁。いかにも軽妙で、クスリと笑ってしまう名調子。ついつい声に出して読みたくなる。
文章だけでなく、挿絵も田島征彦氏が描いておられて、何ともユーモラスでそれでいて大胆。
そうべえ始め、亡者たちや鬼たちのとぼけた表情もちょっと怖いけど、よく見ると可愛くて愛嬌があって。
子どもたちにウケるのもよくわかる。
覚えてしまうくらい、何度も何度も読まされた。
そのうち、娘らは「私が読んであげるから聞いてて」と言い出し、今度は何度も何度も(同じ話を)聞かされた。(眠い…)
でも、子どもの声で、落語家よろしく名調子で読まれる地獄のお話は、なかなか味があって、面白かった。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
地獄、の概念は、どこの国にもあるようだ。
生きているうちに悪いことをするとそこに追いやられ、ずっとずっと続く責苦を負わされる、と言う。何せ、もう死んでるわけだし、これから死ぬわけではないのだから。
だから、悪いことをしてはいけない、と昔の子どもたちは言い聞かされて育った。
「嘘をつくと、閻魔様に舌を抜かれるよ」
「悪さをすると針の山に登らされるよ」
こんな言葉が、功を奏さなくなってから、もうどのくらい経つだろうか。
本の中に出てくるような地獄なら、そして、件の4人のような仲間がいるなら、地獄も面白いかもしれない、などと思ったりもする。
現代では、地獄はあの世よりこの世にこそありそうだし、なあんてことを言うつもりはないけれど。
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今年も明けて、はや13日も過ぎました。
いろんなことがあった昨年でしたね。
今年はどうか穏やかに過ぎて欲しいと願っています。
普段、今年の目標、なんてとりたてて立てたりしないのですが。
でも、今年は考えてみました。
人の話は聞くけど、そのまま飲み込んでしまうのではなく自分でゆっくりよく考えて自分で判断する、でも、その考えを人に押し付けることはしない、この2つです。
難しいけど、日々考えていこうと思います。
今年が皆様にとりまして、最良の年になりますように祈念いたします。
今年もよろしくお願い致します。
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