つれづれ雑記*写真が下手ですみません、の話*
私には苦手なものがたくさんある。
歌、運動、人前で話す、初めて行く場所に迷わずに辿り着くこと、…and more。
その他には、美的センスというものが完膚なきまでに欠如しているため、絵やデザインというものも苦手。
そして、写真。
これもなかなかに、ひどい。
私が若い頃(びっくりするほど昔のこと)、写真を撮るのはフィルムカメラが当たり前だった。私も旅行やイベント事に持って行ったりするのに、自分用のコンパクトフィルムカメラを持っていた。
当時のカメラでも、さすがにピントや露出は自動で合わせてくれるので、被写体にレンズを向けてシャッターを押せばそれですむ。
……すむ、のだけれど。
私と同じくらいのお歳の方なら周知のことだし、お若い方でも「映るんです」みたいなレンズ付きフィルムを使ったことがおありなら存知だろうが、フィルムカメラで撮影するときは、ファインダーと言われる1センチ4方くらいの覗き窓?のようなところから被写体を見て、写真の構図を決めてシャッターを押す。
実際のレンズの位置とファインダーの位置は少し離れているので多少のズレは生じるが、まあ、それは誤差の範囲内だ。
ただ、片目で覗くファインダーで見る風景は、いかんせん、小さくて見にくい。
そしてここが、フィルムカメラとデジカメやスマホとの大きな違いなのだけど、撮影した写真をその場で確認することができない。
撮影済みフィルムをD.P.E.店に持って行ってプリントしてもらうまではどんなふうに撮れたかはわからないのだ。しかも、明らかに失敗したな、と思っても消去して撮り直し、なんて言うこともできない。
今、改めてこうやって書いてみても、あー、昔の写真って、ほんと、大変だったなあ、と思う。
それでも、きちんと見て考えて撮れば、ちゃんとした写真が撮れるはず、なのだけど。
D.P.E.店でプリントを受け取って帰って見ると、ありゃりゃ、ということが、私は非常に多かった。
というか、それも、よほどひどければ自分でもわかるのだけど、ちょっとどうなの、これ、というくらいだと、他者に指摘されないとどこがマズいのかわからないのだ。
とにかく、全てに於いて大雑把なのだから仕方がない。(おいおい、開き直るなよ)
たとえば、友人と旅行に行ったとする。
この彼女がまた記念撮影が大好きなのだ。
彼女に頼まれて、どこかの名所で彼女の写真を撮る。彼女は私が写真が下手なことを重々承知しているので、撮る前に最低限守るべき鉄則を言い渡す。
曰く、ファインダーを覗いて、まずはその枠の中の中心に被写体(この場合は彼女)を入れること。
曰く、地面や空は必要以上に入れなくていいからね。
当たり前でしょ、とか言わないで欲しい。
意味がわからないという方のために説明しておくと。
私が写真を撮ると被写体がなぜか真ん中でなく右や左に不自然に寄っていることが多かった。さらに写真の下半分が全部手前の地面や床、とか、写真の上半分が何の変哲もない空、とかいうこともよくあった。
つまり、被写体の彼女の上下右左の余白バランスを全く見ていない、ということなのだろう。
今、こうやって俯瞰的に考えると、私の写真の撮り方は、とにかく写真の中に彼女が写っていればよく、全体としての写真の完成度は、考えていなかったと思われる。そして、それが当時の私には全くわかっていなかったのだろう。
さらに、旅行で写真を撮るのだから、その背景は何か意味のあるもののはずだ。
お城や寺院とかの記念的な建物だったり、洒落たお店屋さんの前だったり、名所の歴史や由来が書かれている看板だったり、きれいに咲いた花とかの植物だったり。
せっかくその前で写真を撮るのだから、その背景もきれいに入るようにして、尚且つ、彼女も真ん中に入れて上下右左のバランスを考えて……。
めっちゃ、難しいやん。これらのタスク全部を、この切手より小さい覗き窓から見て、一発勝負で決めろと? 無理無理。絶対無理やん。
というわけで(どんなわけだ)、私が写真を撮ると、無駄に空や地面が写り(何なら隣のなんていうことのない建物の壁も)、肝心の人物は真ん中より横にズレていて(何なら目もつぶっていて)、背景の風景は、お城とかだったら天守のてっぺんが見切れた、そういう、何とも残念な代物になるのだ。
彼女からは、旅行の後でよくお説教をくらった。
これらの私の数ある作品(?)の中で、ピカイチなのは、北海道に旅行に行ったときのもの。
走るレンタカーの車窓から北の大地に果てしなく広がる麦畑風景を撮ろうとしてシャッターを切った。帰宅してからプリントされた写真を見て、友人が噴き出した。
写真には地平線までずっと広がる麦畑、そしてその中央、本当にドがつく真ん中になぜか道路脇の電柱がデーンと写っていた。
「これ、狙ったの?」
んなわけないだろ。狙っても撮れんわ、こんなん。
「いやー、すごいわ。普段は被写体が真ん中にならへんのに、こんなときだけは電柱がど真ん中に入るんやね」
涙を流さんばかりに笑い転げる友人。
私も一緒に笑うしかなかった。
結婚して家族ができた頃に、デジカメが主流になって、ファインダーでなくそこそこ大きなモニター画面で構図が見られるようになり、しかも、撮ったものをその場で確認して撮り直しができるようになって、私の写真技術はまあまあ向上した。(家族によると、今までの私の技術があまりにひどかったため、伸びしろがかなりあったらしい)
そして最近では、スマホで撮影することが当たり前になって、トリミングや補正編集も自在になり、昔のような、壊滅的にトンデモ写真はなくなった。
……これはこれでスリルがなくなってちょっとつまらなくなった、なんてことはないか。(ないよ)