息をするように本を読む99〜有川浩「図書館戦争」シリーズ〜
【図書館の自由に関する宣言】
①図書館は資料収集の自由を有する
②図書館は資料提供の自由を有する
③図書館は利用者の秘密を守る
④図書館は全ての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、我々は団結して、あくまで自由を守る
1954年に日本図書館協会の総会に於いて採択された宣言。
日本の全ての公共図書館で、利用者に見える場所にこの文言が提示されている。
そして、ひとりの作家が地元の図書館で、額に入れられて麗々しく提示されているこの宣言を読んだことから、この物語は生まれた。
作家の名は有川浩。
そして、物語のコンセプトは、
「図書館で戦争? 月9連ドラ風で一発GO!」だったそうだ。
最初に担当編集者さんにこう伝えたとき、「有川さん、このコンセプトのどこが面白いのか全くわからないんですけど」と言われたらしい。(そりゃそうだろう)
しかし、2006年に第1巻「図書館戦争」が刊行されて以来、別巻2冊を含めて全6巻、アニメ化、映画化を経て、2020年時点で総売り上げ640万部を誇るベストセラーとなっていた。
私がこの本を手にとったのは、いつだったかな。「阪急電車」で有川浩さんの名前は知っていたけど、この本は知らなかった。
図書館で戦争? ライブラリー・タスクフォース(図書特殊部隊)? そこからの、えっ、王子様?
有川さんの名前で、書店で手に取った文庫本。裏返してあらすじを読んで、目をパチクリする。
何? この本?
興味が湧いてちょっと立ち読み。
テンポのいい会話。昔読んだ少女漫画のようなわかりやすいキャラクター。
でもそれで、なんで図書館で戦争になるのか。ここからどうなる?
うーん。
これは、買い、でしょ。
とりあえず、第1巻を購入して連れ帰って読む。
これは…。
面白い。めちゃくちゃ面白いじゃないか。
そうして(いつものことだが)、翌日私は書店に走り、全巻を買い込んだのだった
会話や展開がポンポンと進み、サクサクと読めてしまう。
ちょっとびっくりするような設定は、ある意味ハチャメチャ、と言ってもいいかな?(有川さん、ごめんなさい)
でも、それがいかにも本当らしく書かれている。現実らしく思えてくる。いろいろツッコミどころは満載なのだけど、ツッコミながら読んでいくうちにいつのまにか、こちらもすっかり有川ワールドに取り込まれてしまう。
物語の舞台はごく近い未来ということになっているが、実際には2019年。何と、現実が本の中の未来を追い越してしまった。
詳しい説明は省くとして、この物語世界には、公序良俗を乱す悪書、もしくはそれが引き起こす犯罪から人々を守るため、法務省が定めた「メディア良化法」というものが存在する。
そしてそれに則って『合法的に』検閲行為を行う法務省直轄の特務組織「良化特務機関」が、時として明らかに行き過ぎた検閲で、書店や図書館から「悪書」と断じた本を押収するようになった。
こうして書くと、「はぁ?あり得ないんですけど」と言われるかもしれないが、そこが有川さんのすごいところだ。
読んでいるうちに、そんなこともあるだろう、いや、ありそうだ、と納得してしまう。
理不尽な理由により押収され、乱暴に段ボールに放り込まれ、トラックで運ばれて処分される本たち。現代の焚書だ。
そんな中、良化機関の行き過ぎた検閲から本を守り、本を愛する人々の本を読む自由を守るために結成されたのが「図書隊」という、警察、いや、自衛隊もびっくり、というような本格的な自衛集団。
「本を焼く国は、いずれ人を焼きます」
(これはドイツの詩人ハイネの言葉を引用したらしい)
図書隊の創始者にして、現在は関東図書基地司令の稲嶺和市のこの言葉を胸に、図書隊員たちは良化隊との戦闘の備えて、日々過酷な軍事訓練に勤しんでいるのだ。
さて、このトンデモ設定シリーズの主人公は、笠原郁という。
彼女は高校生のとき、書店で良化機関に取り上げられそうになった大事な本を取り戻してくれた若い図書隊員に憧れ、図書隊に入隊した完全純粋培養の体育会系乙女。
典型的な少女漫画の主人公タイプで、少々面倒くさいところもあるが、やはり、健気で可愛い。何より面白い。
彼女を取り巻くキャラクターも、なかなかに品揃えがよくて。
ものすごく有能だけど、いろいろ拗らせているクールビューティー。
めちゃくちゃ厳しいが、実は熱い熱い心を持つ鬼教官。
その鬼をときには宥めときにはけしかける、いつもは冷静沈着、しかし笑い上戸の、同じく教官。
…and more。
キャラが際立っているため、ドタバタラブコメか、悪に立ち向かうヒーローもの? そんなふうに思われがちだけれど、有川さんはそこに隠して、もっといろんなことが言いたいようだ。
図書隊と良化機関。
正と悪、ばさりと二分されそうだけど、内部ではそれぞれに政治的なややこしい動きがあって。全てそう簡単には割り切れない。
何より、本の自由、言葉の自由を押さえ込み、切り捨てようとするのは、良化機関という公的組織だけではない。
そもそも、「メディア良化法」なる有り得ないような法律が成立したのも、ただ単に政治の圧力だけが理由ではなかったのだから。
この物語が書かれてからもう20年近く経つが、現在の現実世界はどうだろう。もっと難しいことになりつつあるのではないか。
こんなことは、絶対に起こらないと、誰が断言できるだろう。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
言葉狩り。
こんな言葉は使いたくないが。
使えない言葉が増えている気がする。
その言葉で傷つく人がいるから、という理由で。
それは理解する。
確かにそんな言葉も存在するだろう。
でも、悪いのは言葉なのか。
他方で、表現の自由、正義の名の下に、必要以上に他者の非(と思われるもの)を攻撃し貶める人がいる。自分自身の気がすむ、気分がいい、他者にウケる、それだけの理由で言葉を凶器に使う人がいる。
言葉が、泣いている。
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今回、この記事を書くにあたって少しだけ読み返すつもりが、すっかり夢中になってしまい、ほぼ1日中読み耽ってしまいました。
有川浩さん、恐るべし。(首が痛い…)