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遥かなる星の国vol.20 〜半世紀前のシンガポールに住んでいた〜 ⭐︎スコールと赤い水
私は45年前、父親の仕事の関係でシンガポールに住んでいた。小6から中3までの3年間を過ごした。
縁あってこのnoteでとりとめもない思い出話を書かせていただいて、今回で20回目となる。
そろそろネタも尽きてくるだろう。
いつまで続けられるかわからないが、もう少しお付き合いいただきたい。
noteでシンガポール滞在中のことを書き始めて、忘れていたことをたくさん思い出した。
ただ、記事に出来るようなまとまりのあるものばかりではなく、ぼんやりと光景だけが浮かんでくる断片的な記憶もたくさん転がっている。
むしろ、そちらのほうが多いかもしれない。
スコール
シンガポールはほぼ赤道直下にある。気候帯でいうと熱帯性モンスーン気候。当然、1年を通してものすごく暑い。
四季はないが、ゆるく乾季と雨季がある。雨季は11月から2月くらい。
ほぼ毎日、だいたい昼過ぎくらいに大雨、日本で言うところのゲリラ豪雨みたいな雨が降る。
現地ではスコールとかシャワー、と呼ばれていた。雨季と乾季では、このとき降る雨の量が違う。
降るときはいつも突然だ。
まず、風。
ゆらり、という感じの生温かい風が吹く。
おっ、と思って空を見ると、よく晴れた青い空のずっと向こう、地平線に近い辺りから濃い灰色の雲がちらっと覗いている。
巻いてあった絨毯をクルクルっと広げるようにその雲がみるみる大きくなって空を覆い、辺りがさぁっと暗くなる。
バタンバタン、ボタンボタン、と地面や屋根を雨が叩く音がし始めたかと思うと、その次の瞬間にまさにバケツの中の水をぶちまけたように雨粒が落ちてくる。
辺りはカーテンをひいたように白く煙り、3メートルくらい先までの視界がぼやける。気温がすっと下がる。
最初の風が吹いてからそこまで、3分から5分。
雨粒は日本のそれより大粒で身体に当たると痛い。
それが地面に当たって跳ね返ってくる飛沫は膝か、それより上まで飛んでくるし、風向きによっては雨はあらゆる方向から降りつけてくるので、基本的に傘はまったく役に立たない。
赤い雨水
だからなのか、思い出してみるにシンガポールではあまり傘をさしている姿を見かけなかった。
スコールになると人々はみんな、慌てず騒がず、とりあえず手近な軒先で雨宿りをしていた。
ただ、子供たちは例外だ。
私たちが住んでいた郊外の高層アパート周辺では、雨が降り出すと一階部分にたくさん住んでいたマレーシアの子どもたちが、嬉しそうに道路に飛び出して走り回ってはしゃいでいた。
あの大きな雨粒が当たると結構痛いと思うのだけど、その感じをも楽しんでいるのか、キャーキャーという歓声も聞こえた。
だいたい皆裸足。男の子は上半身は裸。
雨水が道路を川のように流れ、それを集めて側溝はあっという間にいっぱいになる。
ゴウゴウと音を立てて流れる、その水はなぜか赤い。
赤茶色などというものではない。ほんとうに絵の具を溶かしたように赤い色をしているのだ。
地質学の知識は全くないのだが、シンガポールの土壌は鉄分が多いらしい。その泥水だから赤いのだろうか。
雨は30分、長くても1時間くらいで突然やむ。
それはもう、ほんとうにいきなりで、誰かがどこかで止水栓をひねったかのようだ。
雲はいつの間か消えてさっきよりも更に青い空が広がり、気がつくともう太陽がぎらぎらと地面に照りつけている。
陽の光にきらきら光る赤い水溜まりは、みるみる小さくなる。
ほんの今さっきまで走り回っていた子どもたちはいなくなり、濡れていた道路もあっという間に乾いて、15分もすると先程の光景は夢だったのか、と思うほど跡形もなくなる。
夜中の雷
時々ではあるが、夜に雨が降ることもあった。
あれは季節風なのだろうか、そういうときは強い風が吹き、雷が鳴ることもある。まあ、嵐だ。
私たちが住んでいたアパートの窓は、ずっと以前の記事で書いたが、窓枠が歪んでいてきっちり閉まらなかった。普段のスコールくらいなら付属の分厚いカーテンを閉めて、隙間から降り込んでくる雨が防げたが、嵐のときは厳しかった。
両親が寝ていた部屋は風向きのせいか、夜中の雨の飛沫が防ぎきれず、朝、床に水溜まりが出来ていたことがあった。
また、こういうときの雷の音がとんでもなかった。雷鳴は普通、低音だと思うが、シンガポールの雷の音は甲高いのだ。しかも、近いし、長い。
小太鼓や鼓をめちゃくちゃに叩くような音が、頭のすぐ上から聞こえてくる。
来新後、初めて聞いた夜は何の音かわからずに飛び起きた。それから雷がやむまで眠れず、翌日は寝不足だった。
クラスメイトは概ね似たような感じだったが、ただ1人平気な者がいた。
「えっ、そんなに雷鳴ってた? 全然知らなかったなあ」などと言う。
彼は小学校に上がる前から約8年間シンガポールで暮らしている強者で、彼くらいになればこの程度の雷ごときではまったく動じないのだった。
(続く)
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