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絵本 de 原民喜『饗宴』

作画:茜町春彦
原作:原民喜


乾いた星を散りばめて夜空はぴったりと地上に被さっている.


埃まみれの亜鉛屋根は押し潰されたようになっているので、そのなかにいる人間も押し潰されたような姿で、家の外に出てくる.


家の外につづいているのは昼間の熱のまだ残っている埃だらけの路である.


生温かい道路は茫として白く浮き上っている.

この道路は、疲れきった人間の魂の秘密のように、妖しく、懐かしく、そして、もはや何ごとも語ろうとしない.


疲れきった人間は暫く立留まって、埃の路をうち眺め、それからまた狭い家屋に這入ってしまう・・・


雨はもうこの地上を訪れることを忘れたらしく、狭い屋内にも道路にも呼吸苦しさが一様に漲っている.

睡れない人間はもはや睡れないことを諦めている.


ところが、ふと、亜鉛屋根に微かな砂を散ずるような音が始まる.

ためらい勝ちに落ちていたが、やがて沛然と音をたてて勢のいい雨が訪れる.


屋根も、樹木も、道路も、みんなが、みんな泣き出す.

雨に抱きついて、おいおいと泣くのである.
〈了〉

参考文献:原民喜全詩集(2015年7月16日第1刷発行 原民喜 岩波文庫)
使用画材:ArtRage 3 Studio Pro(アンビエント社)Photoshop Elements 10(アドビシステムズ株式会社)
初出:パブー(2016年11月3日) パブー投稿作品を修正して移植しました.