ママのための化学教室-16: 「緑の革命」の落とし子
ゲノム編集トマトが市場に出回り始める…
次は、ゲノム編集マダイ?
「ゲノム編集〇〇」が続々と作られて、
市場に投入されようとしています。
皆さんの耳にも聞こえてきていませんか?
遺伝子組み換え作物だって、よくわからなかったのに
何それ?
遺伝子組み換えについては、こちらに少し説明していますので、
よろしければ読んでみてください。
遺伝子に手を加えるようになったことの起こりは、
60年くらい前の「緑と革命」と呼ばれる一連の
農業革命から尾を引いているのではないかと。
今回は、遺伝子組み換え作物が生まれるちょっと前
までの時間の流れを巡ってみましょう。
最後に茶話会のお誘いがありますので、
目を通していただけると嬉しいです。
まずは一巡目…神の手から人の手へ
「緑の革命」という言葉をご存知ですか?
「緑」という色から連想するものは?
植物、安らぎ、山、エメラルド、深い海の色…それから野菜?
爽やかなイメージですが、実際は色々な思惑が絡まりあい、
複雑な様相を示していきます。
当初、第二次対戦後の落ち着きを取り戻しつつある世界で、
人口増加と食糧危機への不安を解消するために、
これまで戦争で人を殺すために使っていた技術を、
人を生かすために活用しようと、農業分野へ。
その発想は、それまで自然の脅威の中で
翻弄されていた人々に、歓迎され、希望を与えます。
そして、小麦やトウモロコシ、米といった
主食にされる穀物の収量は
飛躍的に増大されていきました。
ここではまだ、生物学的な掛け合わせで
新しい品種を育てています。
原理的には「メンデルの法則」。少し性質の違う株を掛け合わせて、そのタネを取り、次の年に蒔いた株から適当な性質のものを選別して…と、気の遠くなるような作業ですが、それでも普通に栽培していたのではなかなか都合の良いタネは得られないのでコツコツと。当時、元になる品種が世界中から集められて、交配されて選択の幅が広がっていたのも事実です。
日本人の品種改良の能力は高く、日本で改良された品種を
改良原種として多くの品種が作られて、世界で活躍しています。
初期の緑の革命の問題点
同時に、さらに収量を上げるために、品種改良の他に、
農薬や化学肥料を大量に使うようになり、
機械化もどんどん進んでいきます。
このため収量を見込むには、
かなりの初期投資が必要な農業へと変貌。
貧しい農民は、さらに貧しくなり、
投資のできる一部の農園オーナーは、さらに豊かに。
それを元手に貧しい農民の土地を手に入れて
大規模農園を経営。そこで貧しい農民が働く。
という図式が、徐々に確立されて行きます。
大農園は、自分達の生活に必要な作物を作るというより、
他国へ輸出して利益を得るため嗜好品が多く作られます。
国によっては、単一作物の大農園で
国中が埋め尽くされる事態が。
作物の栽培も分業制で行うため、工場の歯車のように
長時間単純労働をこなすだけになり、
次第に農業への意欲と、農業技術そのものが
忘れ去られて行きます。
輸出で長距離を移動させるため、長期間品質を安定させようと、
危険な農薬の散布や、防腐剤塗布などで
従事する農民は体を壊すことも、日常茶飯事。
この、本来持っていた農業技術が忘れ去られたことと、
単一品種に栽培が偏ったことで、病害虫に対する
耐性が歪になり、一度病気が流行ると全滅ということも。
メキシコ、インドなど、かなり成功した国と、
アフリカ諸国のように、あまりうまくいかなかった国。
緩やかに経済的な二極化が進行して行きます。
民衆交易という新しい形
1980年代、それはフィリピン、ネグロス島の飢餓への緊急支援から。
戦後アメリカ合衆国から独立したフィリピンでしたが、
フィリピン国内のサトウキビの大規模農園は、
独立時の保護条約守られて合衆国への輸出に
依存した形で存続していました。
甘い関係はいつまでも続かないもの。
条約は次第に形を変えて、徐々に自助努力が必要な段階に。
うまく適応できていないうちに
世界的な砂糖の価格が大暴落。
砂糖でのみ外貨を稼いでいたフィリピン、
特にネグロス島ではなす術もなく貧困に陥り、
飢餓が蔓延していき、多くの幼い命が犠牲になりました。
世界的にみても、ひどい惨状に
日本からネグロスへ緊急援助という形で
お金が集められ送られました。
ただお金を送るだけでいいの?
という疑問がグリーンコープ生協のお母さんたちから
上がってきました。
ネグロスの商品を地元の生産者が必要経費を賄い、
さらに利潤を付け加え、きちんと生活できるお金として
経済的に回せたら…。
アフリカのベナンに
「魚を欲しがる友達に毎日魚を揚げるよりも、
魚の取り方を教えた方がいい」
(『ゾマホン、大いに泣く』河出書房新社)という諺があるとか。
ネグロスと日本の生協のお母さんたちの間で、
試行錯誤が始まります。
「子供たちに、安全安心に食べられるバナナを食べさせたい。」
日本のお母さんたちの
「子供たちに、安全安心に食べられるバナナを食べさせたい。」
という思いは、何百という種類のバナナの中から
日本人とネグロスの人たちが競合しないバナナの品種を
選定するところから始まりました。
民間主導でこのような試みが始まったのが世界初
ということも驚きですが、何もないところからの発進。
山のような課題が…。
日本の農産物輸入規制の植物防疫法で、
「黄色く熟したバナナは輸入禁止」という課題は
大きく立ちはだかります。
特に、安心安全ということで、食べる時だけでなく、
作業をする方にも健康被害がないように、
健康被害を起こす強力な薬品で処理しない方法を
模索中している関係者にとっては深刻です。
なっているバナナをいかに手早く収穫して、
傷などつけずにきれいに洗浄して船のコンテナに運び込むか。
みんなで知恵を絞って、工夫して…それでも何度も失敗して、
コンテナを開けると毎回過熟でドロドロのバナナ。
これで最後…という船便の荷を開けたら、まだ青いカチカチの
バナナが現れ、もうだめだ…という時に、当時の生協の兼重さんの
「青いバナナが届いたじゃないですか。あと一歩です!」の一言に、
関係者一同励まされ、試行錯誤は続いていきます。
消費者に美味しいバナナを届けるために、さらに追熟試験をと。
あなたがもし店頭で、バランゴンバナナを見かけたら、
そういう物語があったことを思い出していただけると嬉しいです。
現在の取り組み
現在では、日本の農家の皆さんの協力もあり、
循環型の農業を少しずつ取り入れ品目を増やして、
地元で消費する野菜や加工品として、
サトウキビから質の良い黒砂糖の生産などに
取り組まれています。
日本の生協との交流も続いて、日本の子供たちが
ネグロスの子どもたちと交流する、生協の
「青少年ネグロス体験ツアー」では、
日本の子供たちがネグロスの人々に元気をもらって
帰国していました(現在は残念ながら休止中)。
土地の利権問題など、いまだに未解決の課題も多いものの、
日本とネグロスの間で撒かれた小さなタネは、
逞しく成長していって欲しいと思います。
現在では、AFPの活動として「互恵のためのアジア民衆基金」という形で、
商品に僅かな基金代を載せて販売する事で、
インドネシアのエコシュリンプ、パレスチナのオリーブ油、
東ティモールのコーヒー、インドネシア・パプアの
カカオチョコレートなど、少しずつ広がりを見せています。
日本の消費者の、商品開発力は世界でも有数という事で、
商品の改良に大きな利点となっていることも付け加えておきます。
これは、日本の市場で揉まれることで、
世界に出しても恥ずかしくない商品へと生まれ変わって、
堂々と世界市場に届けられて、きちんと生活の糧となっている
という事です。
茶話会のお誘い
日時: 2022年1月24日13:00-14:00(予定)
場所: ZOOM
定員: 10名ほど
参加費: 無料(初回限定モニター価格)
締め切り:2022年1月22日(土)23:00
申し込みURL: https://forms.gle/wMfJ9K5RBZUV4Wrh8
タネから始まる食べものについて、世界の農業をめぐる二巡目に関わるお話しをしたいと思います。遺伝子組み換えやゲノム編集のわかりやすい解説も含めて、健康への影響など、皆様からのご意見もうかがえる楽しい会にしたいと思いますので、ぜひ覗いてみてください。
ご参加ご希望の方は、こちらをクリックしてご登録ください。折り返しZOOMのURLをお送りいたします。今回は、初回限定モニター価格で無料です。次回から有料企画に移行予定です。
もっと知りたい方に
1. グリーコンプ生協 民衆交易について
https://www.greencoop.or.jp/goods/negros/
2 バナナの植物学 https://www.banana.co.jp/basic-knowledge/botany/
3 AFP (アジア民衆基金)、https://www.apfund.asia/ja/