![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150806802/rectangle_large_type_2_83efab862a0d005356086e965e8a76ed.png?width=1200)
公募に受賞して友人に報告したら本気で心配されてしまった話
私の本業は公募川柳なのだが(違います会社務めです)最近になって、今まで取り組んでこなかったジャンルの公募にチャレンジしてみた。全てが手探りなのだが、その戸惑いさえも初めてのジャンルの新鮮さに感じられて楽しい。で、その初挑戦したジャンルの結果のメールがきて、どうやら私は入賞したのだった。ビギナーズラック万歳。
嬉しくなった私は、その入賞を学生時代の友人に話した。タルトが有名なお店で久しぶりに一緒にお茶をした時だった。
「えーすごいじゃん、おめでとう!賞金ってどのくらい?」
私が川柳を出しているのも知っている友人だから、特に違和感なく話に乗ってくれた。
「私は入賞だから1万円で、グランプリだと5万円だったかな」
「え、安すぎない?」
若干、雰囲気が変わったのはここからだ。
「あ、うん、そうかも~、でもお金稼ぎ目的ではないからね」
軽めに流した。1万円を稼ぐ目的で公募をしていない。1万円を稼ぎたいなら、普通にバイトした方が早い。ふと、カップから目を上げると、友人はまだ浮かない顔をしている。
「あのさ、つべるの会社さ(実際には勿論つべるじゃなくて本名で呼ばれている)、副業できるんでしょ?そういうの、ちゃんと仕事にしなよ」
「え?」
「入賞作品って、権利、全部主催者行きなんでしょ。正直もったいないよ」
真剣な表情だった。マウント取ってやろうとか、見下してやろうとか、バカにしてやろうとか、そういう顔じゃなかった。私は本気で同い年の友人に心配されていた。ようやく私は、友人の「1万円が安い」と言う発言が、実質的に1万円が安いとかではなくて、私の労力とか掛けたコストに見合うか、という意味で、つまり私を買いかぶってくれたのだと遅れて知った。
友人には多分、私がある種の搾取されているように見えたのだ。賞金で自分の権利を売って、何にも繋がらないことを本気で案じているのだ。実際には全くそうではないのだが、でも多分、彼女の目にはそう映っているのだ。
動揺した。悲しいとか辛いとかじゃなくて、心がびっくりしていた。
どう返事しよう。何を伝えよう。
その手のことを仕事にするのは難しいってこと?プロが審査して評をくれるってすごいことなんだよってこと?そもそも私そういう仕事したいって思ってステップアップとして公募やってないよってこと?公募って別に実務に繋がるものじゃなくてさ。公募は私にとって単純に公募で好きだからやってるよってこと?なにから。
多分私はかなり険しい顔をしていたのだろう。私の顔を見て、友人は焦った。
「ごめん、勢いで喋っちゃった。趣味でやってるんだもんね」
「うん、好きだからやってる」
その後はお互い他の話をした。ペアローン組んで買うタワマン。周りが取り憑かれたように執着するカルティエのトリニティ。流行りのグルテンフリーカフェ。夫に駐在帯同する共通の友人。
友人とは笑顔で別れた。また会おうねって言ったし、それは心からの言葉だった。でも、この歳になって、本気で心配をされたことに若干傷ついていた。
でも本気で動揺したのは、多分若干図星だからじゃないか。誤解しないでほしい、搾取されてるなんて誓って思ってない。公募はいつでも私に新しい機会をくれ、新しい世界を見せてくれる。でも、公募が公募として独立している故に、いつまでもどこまでもどこにも行けない感覚。
…、いや、公募でくくるのは違うか。長編小説や脚本や漫画であれば商業誌デビューという先がある。私がやっている川柳は私を立場としてはどこにも連れて行かない。私はずっと、ただの、川柳が好きな一般人のアマチュアに過ぎない。今回入賞したジャンルもそれに近かった。
その圧倒的な事実に打ちのめされそうになっている。
そもそも、ただ応募させてもらってる身で、参加させてもらってる身で、こんな尊大に、大げさに、悲劇のヒロインのごとく落ち込んでいる自分にもがっかりした。
項垂れそうになる私の耳にアナウンスが響く。帰りの電車が来た。降りる人よりも乗り込む人が多い電車内で吊革に掴まってスマホを開く。パッと明るくなって出てきた画面は、行きの電車で書いていた川柳のメモだった。私は、そのメモを引き継ぐように、帰りの電車中、ずっと川柳を詠んでいた。
最寄り駅から一歩外に出ると、夕方だというのに容赦ない暑さだった。私はさっきの電車でずっと川柳を詠んでいたことを思い出していた。一切の迷いなく、ただ、集中していた。それまでの友人の話や電車のホームでの鬱々たる気持ちは、全てどこかに消えていた。
行きの電車で書いたメモをリレーのバトンのように引き継いで、帰りの電車の私は川柳を詠んだ。それは、すごく自然な、私が自分で選んだことだった。
今までも、多分これからも、私は公募を選ぶ。その時々で、弱い私は揺れ、「好き」だけで括れない気持ちになるだろう。でも、好きだから。今みたいに、ふと思い出したように「選んでよかった」と心から思う日がまた来るだろう。私を追い越していく自転車の背中を見ながら、そう思った。
おしまい。
いいなと思ったら応援しよう!
![つべる](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/138843061/profile_37c5c241f05c6fb405871479ee71a65b.png?width=600&crop=1:1,smart)