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成瀬が野球に連れていく

8月14日、ベルーナドームで行われる西武対ソフトバンク戦にて、『成瀬は天下を取りにいく』作者の宮島未奈さんがセレモニアルピッチに登場するということで、成瀬仲間に誘われて観戦に行くことにした。

西武線で多摩湖駅まで行って、3両編成に乗り換える。混み合った車内は暑い一日を過ごした疲れと、これから見るものへの期待が充満していた。元野球部の同世代男子の会話を聞くともなく聞いていたら、球場前に到着した。この日は成瀬と同じポーズで写真を撮ろう!というのが推奨されていたのでちゃんと写真を撮った。他にやっている人見なかったけど。

そして入場して成瀬のステッカーをもらう。もらった直後、背後から夫婦らしき人たちの会話が聞こえて、「本屋大賞のやつで、めっちゃ面白いらしいよ」的なことを言っていた。あまり興味がない人にもある程度知られているのだなと思うと成瀬のパワーを感じた。ステッカーには「わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という成瀬の台詞が入っている。「この夏」は2020年8月のことだし、「西武」は西武大津店のことだけど、まるで今年の夏を西武ライオンズに捧げようというファンの気持ちが書いてあるみたいだ。具体的なようで抽象的であるがゆえにこんなことが成り立っている。思った以上に天才的な台詞だったようだ。

『成瀬は天下を取りにいく』の表紙の成瀬。背景がベルーナドームになっている

盆地のように蒸し暑さの籠もった客席につき、そのときを待つ。ドームと客席の間にまだ明るい空が少しだけ見えた。ハイテンションなナレーターの導きで、宮島さんが登場した。もちろん成瀬と同じ栗山選手のユニフォームを着ていた。

著書を片手に登場

成瀬のユニフォームについて、「成瀬は野球に詳しいわけではなく、1番だからという理由で栗山選手のユニフォームを着ている」と説明していた。てっきり野球好きだと思っていたのでちょっと拍子抜けした。成瀬は興味を持ったこと全てに全力で挑戦する人で、私はそういうところに憧れてきた。そんな成瀬も人間だからもちろん万能ではないわけで、野球に詳しくはないという完璧じゃなさは親しみが持てる気がした。あと、宮島さんは栗山選手や中村選手と同い年とのことだ。作家業で新人として活躍している40歳も、スポーツで長く活躍し続けている40歳もかっこいい。宮島さんは「まっすぐ投げられるように頑張ります」と宣言すると、届かなかったもののしっかりボールを投げて明るく去っていった。ずっと嬉しそうに笑顔を見せていて素敵だった。あのポジティブな作品の作者の潑剌とした姿を一目見られて嬉しかった。

明るすぎる球場のライトに頭痛を催しながらも集中して見入ってしまう、いい試合だった。1回裏で1点先制し、4回で取り返されたものの5回で2アウト後の怒涛の展開で3点を獲得して勝った。8連敗後の勝利に客席は沸きに沸いた。外野席のファンたちがそれぞれ振る旗のうごめきがきれいだった。

試合後

宮島さんもきっとどこかの席で観戦していただろうから、この勝利は嬉しかったのではないだろうか。私も嬉しかった。特に野球ファンというわけではない私は成瀬というきっかけがなければこの日観に行っていない。多くはないかもしれないがそういう人はあの広い球場には他にもいたと思う。滋賀も聖地巡りの人々が押しかけているようだけど、西武も成瀬きっかけで入場者を増やしているわけで、宮島さんは滋賀やら西武やら多方面から感謝されて大変だなと思った。

あと改めてだけど、球場には野球本体以外にもたくさんのコンテンツが詰まっている。食べ物や飲み物を売る人とか合間にダンスする人とか、画面に投影される映像を作る人とか、応援する人とか、色々な人の汗を感じた。この日は成瀬も球場が包含するコンテンツの一つだったわけで、そう考えるとなんでも飲み込んでいく巨大な怪物的な性格をプロ野球産業に見たような気がした。


最後にもう一つだけ。万城目学の『八月の御所グラウンド』のおかげで、私の中でお盆と野球がイメージとして強く結びついている。だからこのタイミングで野球観戦できたのは尚更嬉しかった。それと、そもそも約一年前に『成瀬は天下を取りにいく』を手に取ったのは、本屋で『八月の御所グラウンド』の隣にそれが積んであったからだ。この巡り合わせを私は個人的に祝福したい。



↓『成瀬は天下を取りにいく』の感想はこちら

↓『成瀬は信じた道をいく』の感想はこちら


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