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かつお節の目利きについて

一本目の自己紹介で軽く書いた『かつお節の目利き』について、これは何なのかというお声が来ましたので、せっかくなのでこちらを先に書いていこうと思います。
まだ自己紹介をご覧になっていない方は、良かったらこちらもご覧ください。

1. 目利きとはどのような存在か

まず、目利きという言葉自体を調べてみると、このような言葉が書かれていました。

物の価値、真偽などを見分ける能力。

辞書としては、主に骨董品や刀剣、絵画といったものを指しているようですが、近年は一般的にも使われるようになってきているので、築地や市場などでの【魚の目利き】や【野菜の目利き】といった言葉も、聞き馴染んできているのではないでしょうか。

この場合の目利きは、単に物の価値を見抜くということではなく、品質はもちろんのこと、魚であれば漁獲や処理保存状況から魚質にも理解があること、野菜であればその生産における環境や過程、状態にも理解があり、それぞれ最適な調理法などを理解していること、ではないかと、個人的には考えています。
この魚はこの店の好み、あの魚はあの店に合うのではないか、そちらの野菜はあの人が好みそう、といったところまで仕分けて、お客様の口に入るまでを逆算してちょうどよいタイミングで提供している方もいますね。

それは、単に『今ここにあるものの状態』だけを見るのではなく、『その品物の背景から、お客様の手元で開かれ口に入るまで』を想像して、仕事をする人だとおもっています。

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さて、生鮮品であるお野菜や肉魚類とは違い、乾物になっているかつお節にはどんな目利きが必要なのでしょうか。
前の記事では

その時の会話で初めて、かつお節にも『目利き』という仕事があることを知ったのです。この場合の目利きを端的に言ってしまうと≪見て味と品質がほぼわかる≫こと。

このように書いています。
これをもっと具体的に掘り下げます。

2. かつお節の目利きをする、とは

まず、かつお節は【生鮮品】ではなく【乾物】です。
それも魚を下ろして、煮て、燻製にして、カビ付けまで行っているので、元の生のカツオの状態が非常にわかりにくいものです。

しかもかつお節は出汁を引いたときに最もその味と品質がわかるものですが、削ってしまっては売り物になりません。文字通り、目で見て理解するしかないのです。ここで『何を理解するか』ですが、実は非常に多岐に渡ります。
ざっくりと挙げてみますと…

・カツオの漁法(凍結まで含む)
・カツオの鮮度
・下ろし方(機械 or 人)
・煮熟具合
・焙乾の火の入れかた
・カビ付け室の温度・湿度状況
・かつお節の産地
・誰がカツオを切ったか(腕の良い職人に限り判る)
・脂の乗り具合
・味の質
・節の熟成具合
・身割れ、内部の傷がないか

このようなことです。
もっと細かなこともありますが、うちではまずこれが大体わかれば、大まかに質と状態を判別するための材料が手に入ります。
ここから節一本一本の質と状態に合わせて、日干と選別を繰り返して最も良い状態に仕上げていきます。

この最も良い状態とは何か?
うちにとっては『一番美味しい状態』です。

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3. 美味しいは一つではない難しさ

この『一番美味しい状態』という言葉は、簡単に言えます。でもその『美味しい』は、実はとても厄介なのです。

食というものは、土地の文化と連動しています。
最もわかりやすいのはお雑煮でしょう。
丸もち、角餅、あんこ餅、煮る、焼く、おすまし、赤味噌、白味噌、ぜんざい風…
具材は肉か魚か精進か…
皆さんが食べ馴染んだものは、地域によって全く違います。

出汁もそうです。
かつお節優位の東京に対して、昆布優位の大阪。似ているようで実は全く違います。

だから目利きの役割は、ここから本領を発揮することになります。

4. 目利きの役割

節一本一本の状態を見極められるようになると、味も見て大体の想像がつきます。
なので、うちでは料理人さんの好みに合わせて節を選別し、日干による熟成を繰り返し、節を仕立て上げ、最終的に節の味を揃えて提供します。

もちろん完璧に揃うわけでありません。
生き物相手ですので、全く同じものを用意することは不可能です。
しかし、似た質のものを選別して集め、節の大きさや状態に合わせて揃えて仕立て上げることで、ほぼ同じ味を毎回お届けすることができます。

もちろん『美味しい』が前提ですので、酸味やえぐみ、渋味、苦みといったものがある節は、当然ながら選別の対象外です。
(このような雑味が出る節は、そうなる原因があります。本来かつお節から雑味は当たり前に出るものではありません。これはまた別の回で書きます。)

そして料理人さんが好まれる味の違いを理解するためには、その土地の文化や風土なども同時に理解していなくては、それぞれに合ったものや使い方を提案することはできません。

昆布を活かした出汁を引きたい人に、かつお節の香りも旨味も全面に押し出すような節を提供して合うのでしょうか。
比較的水の柔らかい地域の方に、出汁が出る節をたっぷり使うことをお勧めすることが合っているのでしょうか。
濃厚な味噌を使う地域に、あっさりとしたかつお節でバランスが取れるのでしょうか。
一回に出汁を引く量が少ない方に、まとめてたくさんの節を購入することをお勧めしたほうが良いのでしょうか。

食文化、土地、背景、お店の好み、使う量と頻度、保管場所、削り器…
お客様それぞれの状況に合わせて最適なものを提案し、提供すること。
それが、かつお節の目利きの役割一つだと考えています。

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⇑左から大阪(11月)、京都(11月)、東京(10月)。全て好まれる節が違います。

最後に、最も重要な役割は…

この目利きという技を持つ人は、今の日本では弊社社長一人しかいません。
生産者はこのような仕事をもって節が完成して届けられていたことを、同業者ですらこんな技があることを、今では殆どの人が知りません。
この技をもって、選別や仕立てが当たり前に行われていたのは約35年前までです。この頃にかつお節業界にとって、大きな転機がありました。
それ以前からかつお節を削ってだしを引いていた方、恐らく50代以上の方であれば辛うじてですが、美味しいかつお節の記憶があるかもしれません。
裏を返すと、若い世代の方が知らなくてもおかしくないのです。
業界の人でも料理人の方でも。

うちは節を見れば、どんな原料で、どんなふうに作られたのかわかります。
質の良い原料で、時短もせず丁寧に作り、しっかり時間をかけてカビを生えさせて、美味しくつくろうとした節は、その姿全体に現れます。

目利きというのは、単に美味しいものを提供する事だけが役割ではありません。
最も重要なのは「作り手の行った仕事を正当に評価をすることができる事、その品物を活かす事」であると考えています。

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これからの時代に求められているのは単なる『美食』よりも、作り手に対して正当な評価をし、その品物を最大限に活かすことのできる目と知恵です。

生産者に自信と誇りをもって最大限に腕を振るって仕事をしてもらう。
そうなっていただけるように、努めています。

時間もかかるし難しい仕事ですが、やりがいのある、とても良い仕事だと思います。
私たちの仕事をやってみたいと思う人が増える世の中になったらいいなと思いながら、そのためにこうやって発信することも、目利き見習いの役割ですね。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。