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かつお節は洗った方がいい理由

【かつお節を洗う】なんて言うと、かつお節を削っている方のうち、9割くらいの確率で驚かれます。
市販されているかつお節の扱い方を見ると、商品についてくる説明でも、かつお節屋さんの説明でも、料理本でも、大抵が『乾いた布巾や濡れ布巾で拭く』『カビを払う』程度のことしか書いてありません。
中には『洗わないでください』と書かれているところや、そのように説明される方もいます。

これに対して、うちでははっきりと『かつお節のカビはたわしでしっかり水洗いして落としてください。』とお伝えしています。
また、かつお節の問屋や削り節を製造するメーカーさんは『なぜ洗っちゃいけないと伝えているのかわからない』と首をかしげています。

両者間で生まれている説明の違いについて、今回は書いてみましょう。

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洗う理由1:触ると手が汚れてしまうから

かつお節は2種類あり、製造工程の違いによって分けられています。
作り方を簡単に説明しますと…

①荒節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→焙乾(燻製)
②枯節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→修繕→焙乾(燻製)→表面削り→日干→カビ付け

このように分かれます。
①の荒節は、スーパーなどで売られている「花かつお」の原料です。
これが節の状態で売られることは、産地などではない限りほぼ無いことなので、目にされたことのある方はとても少ないと思います。
また、産地で売られていても、大抵表面の黒い部分は削り落とされた状態(裸節の状態)で販売されています。

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上の画像は弊社の荒節の画像になります。
(うちでは、これが削り原料になります)
これを見ていただくとわかる通り、しっかり煙に燻されているため全体が真っ黒に黒光りしています。
この黒光りはタールがついているためで、べたつきがあり手につくとなかなか落ちません。
香りも「燻製の香り」というよりも、「煙の強いにおい」を感じます。

②の枯節、こちらは目にされる機会が減ってきているとはいえ、乾物屋さんや大手の百貨店、品ぞろえの良いスーパーなどでも置いてありますし、手に取ったことはなくとも映像などで目にされたことのある方も少なくないと思います。
一本の姿売りをされているのは、殆どこちらです。

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①の荒節とは全く見た目が違います。
茶色っぽいような微妙な色合いで、なんとなくカビが生えていることがわかるのではないでしょうか。このカビは、一応食べても体に害はない種類の培養カビを噴霧して育てています。(食べても問題ないという方もいますが…このカビの話についてはまた別の機会に書きましょう。)
表面でカビが育っているので、手で持つとカビで手が汚れてしまいますし、カビもパラパラと落ちてしまいます。

荒節も、枯節も表面に薄くついているだけのものではないので、拭いたり払ったりするだけでは到底落ちません。
荒節のタールに関して言うと、べったりとくっついているので、昔は表面のタールを小刀で削り落としていました。
枯節も、濡れ布巾で軽く拭いた程度では細かなしわや凹凸に入り込んだカビはとれませんし持っていても手が汚れます。

理由2:味や香りが悪くなるから

荒節は理由1にも書きましたが、表面にタールがついているために「強い煙のにおい」がします。
タール自体も強い苦みやえぐみ、渋味の元となりますし…何より食べておいしいものではありません。
なので、表面のタールはできるだけ落としてしまいます。

枯節の場合は、細かなカビが出汁の中に入ることで灰汁やえぐみの原因にもなります。またカビのにおいも若干ながらある為、日本料理のお椀などに使った場合、邪魔になりえます。
せっかく【削る】という一手間をかけていただくのですから、美味しく召し上がっていただきたいので、できれば洗ってきれいな状態の節を使っていただきたいのです。

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⇑ご家庭でもこんな出汁が引けますよ。
(自宅でちょっとだけ目の細かいザルで濾しただけ)

理由3:菌数検査で引っかかる

食品を販売するにあたり、安全性というものが最も重要になります。
その一つの基準として、食品に含まれる菌数があります。
味噌やお漬物などの発酵食品は別として、カビが付いたまま削ってしまうと、製品の中に大量のカビが一緒に入ることになります。
これはいくら乾物とはいっても、安全性が保障されません。
そのため、削り節の加工を行う業者は、必ずかつお節を洗ってから削り加工に回すのです。

ということで、下の画像のようにガラガラと豪快に洗っております。


荒節の表面は、昔は小刀で削り落とすものでしたが、現代は野菜洗い機に投入して、水を流しながらごろごろまるっと丸洗いします。
これでブラシと節同士の擦れあいで、表面のタールが落とされていきます。
枯節の場合も同様に洗い、表面のカビが落ちていきます。
うちの会社は水を流しながら5分~10分程度です。
洗う時間などは各社によって考え方が違うので一律ではありませんが、とりあえず落ちるものが落ちたらよいのです。

洗った後に注意すること

かつお節を洗って削ったほうがいいということは、上記3つの理由でご理解いただけたと思います。

しかし、洗うのであれば注意しなくてはいけないことがあります。
それは水にぬれた状態または湿った状態で削ってはいけないということです。

ご家庭の鰹節削り器は、鋼の刃がついているものになります。
この鋼は和包丁と同じで、水分がついていると錆びます。
錆びてしまうと困るので、かつお節を洗った後は必ず水分を良くふき取り、しっかり乾かしてから使用します。
乾かすと言っても、水分を良く拭き取って30分も部屋に放置しておけば充分です。
太陽に当てる必要も、風に当てる必要もありません。
ここだけ守っていただけたら、何の問題もありませんので、これだけは忘れないでください。

ちなみに、最初の丸洗いした後は、洗う必要はありません。
何回も洗う必要があるのかと聞かれることがありますが、最初に洗うのは表面についているカビを落とすためなので、1回丸洗いしてお終いです。

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以上の理由から、かつお節は洗って使った方がいいと考えています。
しかし、洗わなくてもいいと思われる方には無理強いはしません。
どちらでも、お使いになられる方が選べばいいと思います。

できれば、皆様には削るという一手間をかけられるのであれば、「美味しく食べていただきたいので洗ってほしい」というのが私の本音です。
かつお節を洗うということも、知識として入れておいていただけると嬉しいですね。


文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。