本の感想Vol.3:地雷グリコ/青崎有吾
記事をご覧いただきありがとうございます。
今回は、青崎有吾さんの「地雷グリコ」の感想を書いていきます。
青崎有吾さんはミステリー作家の方ですが、本作品は純粋なミステリーというよりは頭脳バトルものです。
聞いたこともない、でもどこか身近なオリジナルのゲームがたくさん登場し、登場人物たちがその頭脳をフル活用して勝負に臨みます。
主人公・真兎の鮮やかな活躍が見事で、最近漫画化もされたようですね。
率直に、よくこんなゲームを思いつくなと感心させられます。
私も一緒になって必勝法を考えてみましたが、全然だめでした。
みなさんも読みながら、自分なりの戦略を考えてみてはいかがでしょうか。
Amazon.co.jp: 地雷グリコ : 青崎 有吾: 本
①本のかんたんな紹介
あらすじ(Amazonより)
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。
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頭脳バトルというと、私の世代ではデスノートとかカイジが思いつくのですが、本作品はそうした殺伐とした雰囲気ではなく、高校生たちがしのぎを削って戦います。
そうは言っても、本人たちは真剣そのもの――文化祭の出展場所を取り合ったり、行きつけの店の出禁を解くためだったり、あるいは、過去の後悔を清算するためだったり、様々な理由で高度な頭脳戦が繰り広げられます。
登場するゲームは全部で5つあり、特徴は現実にあるゲームを、少し改変したオリジナルルールにしていることです。
『地雷グリコ』・・・地雷が仕掛けられた階段で、先に頂上まで登り切ったほうが勝つ「グリコ」。
『坊主衰弱』・・・百人一首の坊主の札を揃える「神経衰弱」。
『自由律じゃんけん』・・・グー、チョキ、パーに、それぞれ1つずつ独自手を追加して戦う「じゃんけん」。
『だるまさんがかぞえた』・・・振り返るタイミングと歩く数を事前に入札する「だるまさんがころんだ」。
『フォールーム・ポーカー』・・・カードをそれぞれの柄の部屋に取りに行く「ポーカー」。
ベースのゲームの特徴を残しつつ、全く別の頭脳ゲームに改変しているのは見事です。
個人的には自由律じゃんけんが、勝ち方も含めて好みでした。
本作のゲームの重要なポイントは、ルールをうまく活用すること、もっと言うとルールに書かれていないことをいかに活用するかです。
例えば、入室回数に制限のある部屋に入るのに、床に足が触れた時点で入室とみなす、というルールがあります。
これは裏を返せば、足をつけなければ入室カウントされない、ということになります。
もちろんそんなことは明言されていませんが、定められたルールをかいくぐり、ときにイカサマを交えながら、相手を出し抜きあっていきます。
また、主人公の真兎の布石の打ち方がうますぎます。
誇張抜きで、彼女の一挙一動が勝つための行動となっているのには毎回驚かされました。
現実にここまで先読みできるわけないだろうと思いながらも、舌を巻く展開は読んでいて気持ちの良いものでした。
②印象的な一節の引用抜粋
本作品はその性質から、物語を象徴するような言葉や印象的な一節はあまりありませんでした。
(登場するゲームがあまりに印象的なため。)
そんな中でも、気になったのはこの2つです。
"このゲームの本質は地雷の位置をどう隠すかじゃない。相手の出す手をどう操作するかだ。"
これは1つ目のゲーム、『地雷グリコ』での台詞ですが、この作品のゲーム全体に言えることでした。
自分の戦略に乗せるため、相手の性格を理解し、操作する。
相手も相手で勝とうとしているわけですから、絶妙に飛びつきたくなるような隙を見せ、それをあたかも思慮の足りないミスのように見せて騙す。
そんなことを互いにやりあっているので、読んでいる側はどっちが優勢なんだか全くわかりません。
そこに先にも述べたルールの裏を突くイカサマなども加わって、ゲームは異次元の戦いへと昇華されます。
"人生はなかったことにできないじゃん。"
これは主人公・真兎がこぼした言葉です。
真兎は勝負には異常に強いのですが、普段はそれを悟られないようにするためか、軽くて掴みどころのない様子を見せています。
それは本作の狂言回しを担う親友の鉱田ちゃんからも、危うくて捉えどころのないと思われるほどです。
真兎視点で物語が描かれるパートでも、頭の中は戦略のことばかり、といった独白がありました。
そんな真兎も実は過去に大きな後悔があり、この一節はその後悔から来る発言なのです。
どれだけ勝負に強くて、どれだけ完璧な戦略を立てても、起きてしまったことを無くすことはできない。
だから人の運命を変えるような勝負は嫌いだし、戦うからには"絶対に"負けない。
真兎の勝負強さの根源がわかる一節でした。
③思ったこと、感じたこと
ここまで散々述べてきたとおりですが、とにかくオリジナルのゲームと高度な頭脳戦がおもしろく、読み進める手が止まりませんでした。
この手のゲームを描いた作品で、本作品を超えられるものはあまりないのではないでしょうか。
一方で、やはりゲームが中心の作品だったので、それ以外の描写は控えめでした。
ちゃんと登場人物のドラマ――真兎の後悔の清算などは用意されているものの、もう少しそれぞれがどんな人物なのかわかると良かったなと思います。(特に鉱田ちゃん。彼女視点で話が進むので、描写が少ないのです。)
とはいえ、作品として高度にまとまっていることに変わりはありません。
「俺たちの戦いはこれからだ!」てきな終わり方でもあったので、続きがあることを期待してみたいと思います。
④まとめ
というわけで、今回は青崎有吾さんの「地雷グリコ」でした。
漫画もはじまったので、折を見て読んでみようと思います。
そして青崎有吾さんのミステリーもちゃんと読んでみたいなと思いました。
これからも本の感想を書いていくので、引き続きよろしくお願いします!