「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)
「最後に、ひなに飛ぶことを教えてやると、約束してください」
(中略)
「約束する。そのひなに、飛ぶことを教えてやる。さあ、もう休むんだ。ぼくは助けを呼んでくるから」
――p37-38より引用
もうすぐしぬことがわかっているカモメは、会ったばかりの猫に、これから生まれる子どもを託す。カモメじゃないどころか、羽も生えていない生きものに。
それは、他に託す人(?)がいなかっただけじゃなく。この人なら大丈夫だと、安心したから。会ったばかりの自分でも、十分わかる優しさを備える猫・ゾルバに。
『カモメに飛ぶことを教えた猫』に、人はほとんど登場しない。少なくとも、二人は登場する。その内の一人は伏せるとして、もう一人はゾルバの飼い主である少年。
夏休みになり、ゾルバを自宅に置いていくことになる少年。(それがきっかけで、ゾルバはカモメに出会うことになる。)
作中で少年は、自宅から離れる直前しか登場しない。けれど彼は、ゾルバだけではなく、物語にとっても重要な人物であると思う。
「本当に、この子はすばらしい子さ」
(中略)
「すばらしい子? いやいや、それ以上だ。最高の子だ」
――p16より引用
「二ヵ月したら帰ってくるからね。おまえのこと、毎日思っているからね。約束するよ、ゾルバ」
――p23より引用
少年は、ゾルバを深く愛している。ゾルバも同じくらい、少年を愛している。
一人と一匹。人間と猫。まったく違う生きものたちが、築く友情。
それはそのまま、ゾルバとカモメの子ども――フォルトゥナータの関係に引き継がれている。
きみのおかげでぼくたちは、自分と違っている者を認め、尊重し、愛することを、知ったんだ。自分と似た者を認めたり愛したりすることは簡単だけれど、違っている者の場合は、とてもむずかしい。
――p123より引用
猫達と過ごしてきたがゆえに、自分がカモメであることに悩めるフォルトゥナータに、ゾルバがかけたことば。
ゾルバ自身も、自分とまったく違う生きものを育てる中で、たくさん悩み、迷ってきた。けれど、あのカモメとの約束を守ることを最優先にしてきた。
それは、仲間である猫達だけじゃなく、ゾルバを愛してくれる少年のおかげもあったと思う。ゾルバはすでに、「自分と違っている者」を愛し、愛されていた。
人間と猫。猫とカモメ。ゾルバが言っている通り、「自分と違っている者を認め、尊重し、愛すること」は、とてもむずかしい。
それでも、彼らは、時に苦しみながら、やってのけた。ぼくはそれを、とてもうらやましいと思うし、なんだか希望のような気がした。
カモメに飛ぶことを教えた猫 - ルイス・セプルベダ(訳:河野万里子)(1998年)