宙の裏側で、君を見ている。(100年後 あなたもわたしもいない日に/土門蘭、寺田マユミ)
時々、てのひらに違和感が出る。てのひらの皮膚の表面を、軽く電気が流れるような感覚がする。しびれというにはかすかすぎる感覚(後略)
――『拓けども拓けどもまだ』より引用
この歌集を読んでいたとき、自分の「てのひらに違和感が出」た。痙攣というほどではないけど、かたかた震えている。よく見ると、特に右の方が震えている。なぜか、人さし指だけ前の方に出ていて、そして最も震えている。
「何を主張しているの?」
返事は、ない。
そのとき開いていたこの歌集も、この手と同じように、かたかた震えていた。見ようによっては、しゃくり上げている子どもの喉のように見える。見ようによっては。この震えに気付いているのは、きっと僕しかいない。
拓けども 拓けどもまだ日光も 言葉も届かぬ 密林を持つ
――本文より引用
「書きたい」ときと、
「書けない」ときと、
「書きたくない」ときがある。
つまり、3分の2の確率で白紙に向かうことができない。けれど、ソレをなんとかねじ伏せて、3分の1の「書きたい」を引っ張り上げて、コレを書いている。何も存在しない場所(という名のレポートパッド)に何かを書き付けている。
コレで、お金をもらっているわけじゃない。賃金が発生しないなら、「書けない」ときや「書きたくない」ときと、何も変わらないんじゃないか? そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。わからないから、書き続けている。
どこまでも ひとりであるのは知っている 時々うっかり 忘れるだけで
――本文より引用
歌や詩に憧れる。
人は、自分がなれないものに思慕する。(僕は、だらだら書きつらねるしか、能がないから?)憧れは、手に届かないから憧れのままでいる。
この歌集を開いている今、僕はあるコーヒーチェーンにいる。けれど短い歌が、目の前を次から次へと流れているので、終いには、僕もその場所から流されていく。
縄文時代にタイムスリップしたり、かと思えば、宙に放り出されていたり。F1カーより、ジェットコースターより速い速度で。
けれど、僕は知っている。僕と君が接続していることを。
今出会っている君も、未だ出会っていない君も、一生出会わない君も――僕は赤い糸で結ばれている。
蝶々結びにしてあるから、解こうと思えば解けるよ。僕は、そんなことしないけど。
行き着いた 場所はようやく帰りきた 場所かもしれず 「ただいま」と言う
――本文より引用
でもね。やっぱり僕がいるのは、コーヒーチェーンだよ。
全ては夢?
全ては妄想?
それでもいいよ。
100年後の君に向けて、100年前の僕は書いている。
100年後 あなたもわたしもいない日に/土門蘭、寺田マユミ(2017年)