またね(さよなら4月のドッペルさん/ねこぼーろ)

4月になった。
僕は、また瞑想をするようになった。
瞑想といっても、あぐらをかいてじっとしてるだけなんだけど。

たいてい、夜にする。
世界が見えにくく、聴こえにくくなるから。
それは、僕を何より安心させる。

そして、僕は目を閉じる。

――そっちの調子はどう?
僕は訊く。

しばらくして、
――最低だよ。
返事が、来た。

もちろん、返事をするのも僕だ。
ただし、別の「僕」だけど。

――そうだろうね。
僕は同意する。
ふり返ってみると、
最高なことよりも、最低なことの方が多い人生だ。

――そっちは?

――最低ではないよ。少なくともね。
  でも『最高』っていうと、ニュアンスが違う気がするから……。
  なんだろ。『最上』とかかな。
  あんまり変わんないかな。

――口数が多いね。
「僕」は指摘する。

――口数が多いときは、気分が乗ってるか、幸せでしょうがないときだ。
  僕も、「僕」も。

僕は、おもわず口をつぐんだ。
自分がそんなに喋っていたことに驚いた。
そのことについては、しばらく考える必要があった。

――どっちもかな。
僕は答える。
――僕は、きっと幸せだよ。
  もしかしたら、ずっと幸せだったかもしれないけど。
  少なくとも、今はそう思ってるよ。

「僕」は、長いこと喋らなかった。
その気持ちは、わかる気がした。

――もう少ししたら、生きててよかったと思うことになるよ。
  大げさだけどさ。

――……。

余計なことを言ってるな、と自分でも思った。

――嘘くさいだろ。今までのことを考えたらさ。
  でも、死なずになあなあで生きてたら、たまたま幸せになれたよ。

――もういいよ。
「僕」は、拗ねるように話を遮った。

――「僕」って、必要なかったのかな。
しばらく後で、「僕」は言った。

――どうだろうね。
僕は、正直に答えることにした。
――「僕」がいる頃には戻りたくないよ。もう二度と。
  でもさ、「僕」が不幸でいてくれたから、
  僕は幸せになれたんだと思う。
  それは、きっと本当なんだよ。
  だから、「僕」もきっと大丈夫なんだよ。

「僕」はまた、しばらく黙りこんでいた。

――ねえ、

――もういいよ。
「僕」の声から、棘が消えていた。

――まあ、「僕」もなんとか死なずに生きてるしね。
  僕が……『自分』がそう言うなら、大丈夫なんだろうね。

――……。

――じゃあ、そろそろ行くね。

――うん。健闘を祈ってるよ。

――そっちもね。

僕は、目を開けた。
暗く沈んだ室内が目に入る。

夜は昔、自分を守ってくれる分厚い毛布だった。
でも今は、自分を安心させてくれる柔らかいシーツだ。

ねえ。
僕は今、幸せだよ。
この先のことはわからないけど、
今幸せなことは、たしかなんだよ。
そのときが、「君」にも来るから。
「君」の幸運を、祈ってるよ。

さよなら4月のドッペルさん/ねこぼーろ(ニコニコ動画より)

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相地
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