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スペードの3

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【スペードの3  朝井リョウ著】

誰かの役に立っているふりをして、その実、自分のためにやっている。

主役でいたい。注目されたい。中心にいたい。はぐれたくない。
本来の目的は、こんな風にとても卑しい。
だから「誰かのため」と言い聞かせる。

そんなこと、人生でたくさんしてきた。
そして、たくさん見ないようにしてきた。
でも、自分は知っている。
本当の目的を、自分は知っている。

隠しておいた気持ちがバレる。
読み進めていて、なんとも居心地の悪さを感じる。
だけどバレると、安心もする。
隠すって結構エネルギーがいるから。

人って綺麗だけじゃないし、汚いだけでもない。
だけど、できれば汚い部分は見たくないし、いい人でいたい。
だから汚い部分は無きものとして、私の中にその置き場所を許さない。
私の汚い気持ちの置き場所が、私の中にない。
それが実はきつかった。
きつかったことを、読み進めるうちに感じられた。

汚い気持ちを白日の元に晒してくれたこの本に感謝したい。

 主役の座から転落していく焦り。
 持っていたものが手からこぼれ落ちていく悲しみ。
 「自分じゃない」という虚しさ。
 「あの子ばっかり、なんで」という妬み。
 人を惹きつける痛みの物語を欲する、その底にある依存心。

どれも身に覚えのある感情ばかりだった。
読んでいて痛快だった。
バッサバッサと斬られていくのは爽快感すらあった。

気まずい感情は、できれば感じたくない。
できれば清い人間でありたい。
主役を望まず、誰かを妬まず、「自分は自分なんで」と涼しい顔で言ってみたい。
でも、私はそれは到底できそうもない。

無くした先に、醜い先に、妬みの先に、私の人生が続いていく。
ならば、それを抱えたまま生きていくしかない。
そしてそれは、間違っていないと思う。

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