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つながる沖縄近現代史 書評

※これは、2022年1月15日の沖縄タイムス 読書17面に掲載された書評に、加筆したものです。

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 私は日本史がさっぱり分からなかった人間である。幕府と朝廷の違いもわからず、ひたすら年号を暗記するだけで逃げてきた。キーワードは覚えていたけれど、それが実際どういうことで、何が起こっていたのか、1ミリも理解なんてしていなかった。それが、2017年には大河ドラマにハマりまくり、ゆかりの地をめぐり一週間の旅に出るまでになった。

 私にとってのコペルニクス的展開。
  それは、大学で琉球史を学んだ時だった。

 そこには、私の知っている土地や人々とつながる歴史があった。そこで、なるほど今まで私が学んでいた歴史は、自分が住む島の物語ではない、という当然なことにやっと気づいたのだ。私が、私とつながる「歴史」に出会った瞬間、その立ち位置が理解できたのである。

 すべては、「彼ら」の物語だったのだ。すべて腑に落ちた。*1

 その後、県外に行くたびに、頭に詰め込まれていた日本史のあらゆるものが、風景とつながっていった。そこには、教科書にあるような川があり、山があり、平地や台地があった。聞き慣れた地名があった。そこにまつわる、歴史的な出来事が、すべてそれらに紐付いていた。*2

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 「つながる沖縄近現代史」は、自分たちがなぜ、今、この風景、この社会、この政治的立ち位置にいるのか、「腑に落ちる」1冊である。

 琉球・沖縄史を公教育で体系的に学ぶ機会は少なく、戦争で地域やコミュニティが解体され、開発や埋め立てで本来の地形がわからなくなった沖縄では、身の回りから歴史を学びとり、その連続性を体感することは難しい。そんな状況の中では、逆に現在から遡るように歴史を紐解くほうがわかりやすいのではないかと思うことがある。

 本書の副題には、「沖縄のいまを考えるため」とある。まさしく、現在の沖縄を過去に「つなげる」役割を持ち、それを意識して編まれた本だ。琉球王国の末期からこれまでについて、具体的なトピックを中心に追うことで、現在の沖縄が形成されてきた経緯がつながる。オムニバス形式で歴史のハイライトを追うように、カラフルなタイトルの15の章が連なる。

 編者らは、“沖縄のシマだけでなく、「人の」歴史を描きたかった”と語る。その広がりをつくるのが、20のコラムである。「歴史」は主に政治や権力を主流として語られがちであるが、実際の時の流れの中には、常に多様な人々の紡ぐ現実が存在することを思い出させてくれる。若手からベテランまで、社会学的な視点も押さえながら、それぞれの研究から見える「歴史」の一面を提供している。

 特徴的な仕掛けとして、本の各所に注釈や着目点を示すための「フラグ」が仕込まれており、いわゆる布石のような役割を果たしている。それは、一見バラバラなトピックの連なりに見える各章とコラムを「つなげる」役割にもなっている。点として抜き出され、利用される「歴史」を時間の文脈の中に引き戻す機能を果たしている。

 また、繰り返される歴史のつながりや類似性、変わらない構造があることが示唆されているようにも思う。沖縄の歴史は、時代は変われども同質の、何らかのパワーに常に揺り動かされているようだという感想を持った。

それについては、腑に落ちないままである。

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注釈と追加の蛇足ひとりごと

*1)沖縄で、琉球や沖縄の歴史を公教育で学ぶことができないことも、腑に落ちないことの一つである。ましてや、日本史は教科科目として成績が付けられ、試験科目ともなる。その時点で、社会的な認識や重み付けがされている。この話をすると、総合学習などの時間に「地域の歴史」を学ぶ機会があったのでは、と聞かれることも多いが、奄美や石垣、宮古を含む琉球弧の歴史を学んだ上で、自分の住む市町村などの「地域」のことを学びたい。琉球・沖縄の歴史は、日本の歴史の一部というには全く違う文脈を歩んでいる。中国・韓国の歴史が日本史の一部として欠かせないのと同じ関係ではないだろうか。そういう意味でも、沖縄の立ち位置が、琉球史と日本史を学んだ上で理解できた。

*2)家族で県外に旅行に行く機会なんかも全然なかったから、高校で初めて部活の遠征で福岡行ったり東京行ったりできた時にはマジで景色の違いに感動した。植生がまっっっったく違う。針葉樹見て感動し、河川敷みてはまた感動した。小学校の「せいかつ」の教科書の世界がそこにはあった。27歳くらいの時に、「つくし」を初めて見て感動した。29歳の時に、九州で「古墳」の跡地が地形として今も残っているのを見て感動した。そりゃ、理解できますわ、日本史。ってなった。

 理科でもなんでも、知識が理解できるかはその人の経験の差にもよる、みたいな話がある。例えば、沸騰するお湯や湯けむり=水蒸気を見たこと無い人が、物質の状態変化について説明だけされても理解するのは難しい。日本史を理解するとは、私にとって経験も知見もないものを理解するのと一緒だったわけだ。

・近現代史の特徴は、まだ「思い出すこと」ができる人がいることである。自らが行きた時間が現在から意味づけされていく中で、その時代を思い出す人々が何を思うのかにも興味がある。今年は特に「復帰」をどう位置づけるかについての様々な議論が交わされるのだろう。

・編者たちがYouTubeでわかりやすく琉球・沖縄の歴史を発信しているのでぜひ見てください!!研究者がアクティブに、そしてカジュアルに発信をしているって素敵。そしてありがたい😭

・日本史も好きです。知れば知るほど日本の文化がわかる。友人に教えてもらったコテンラジオ(ポッドキャスト)にはまってます。大河ドラマも見てます。歴史から学べること多すぎる。

琉球新報に掲載された平良次子さんの書評もぜひお読みください!


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