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読書と生活と絵画(2) 『苦役列車』/西村賢太
こんにちは、みなさんいかがお過ごしですか?
私は女性特有の月のものが来て困っています。
ホルモンによって涙腺の蛇口が馬鹿になるのか、なんにも悲しくないのに泣いていたりします。
ホルモンの存在をこれまでは特に意識することもなく、都市伝説のように思っていました。しかし妊娠出産後の信じられないくらい攻撃的な自分と、地の奥底へ埋められたくらいの憂鬱など、気分のジェットコースター経験して存在を認めざるを得なくなりました。
生理は血と一緒に、鬱積したものが流れていく気がします。だから嫌なことばかり頭に浮かぶのだと思います。毎月その繰り返しで、感情の波の中で自分が大嫌いな気持ちが極まるタイミングがあり、そこでかならず頭に浮かぶ作品があります。
2011年に芥川賞を受賞された
西村賢太さんの『苦役列車』です。
今回はこちらをご紹介させていただきます。
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◆あらすじ
まずは作品の内容をご紹介いたします。
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どれだけ慊かろうとも仕方がない。すべては自業自得のなせる業なのだ。
友もなく、女もなく、一杯のコップ酒を心の慰めに、その日暮らしの港湾労働で生計を立てている十九歳の貫多。或る日彼の生活に変化が訪れたが……。こんな生活とも云えぬような生活は、一体いつまで続くのであろうか――。青春に渦巻く孤独と窮乏、労働と痛飲、そして怨嗟と因業を渾身の筆で描き尽くす、平成の私小説家の新境地。
受賞
第144回 芥川龍之介賞
映画化
苦役列車(2012年7月公開)
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(新潮社作品ページから引用)
◆出版当時のこと
芥川受賞当時に書籍は手に入れていたのですが、
恥ずかしながら当時10代の私には全く意味が分かりませんでした。20代後半になりやっと読めるようになり、ぐらんぐらんに己の軸が揺らぐのを感じました。その経緯を簡単にお話しさせてください。
作品知ったのは受賞の翌年、森山未来さん主演で映画化をされたことがきっかけです。
土曜日のお昼に放送されていたTBSのバラエティ番組、映画コーナーにてご紹介されていました。映画コメンテーターの女性の明るい口調と相反する、暗い恐ろしい内容と映像に釘付けになりました。結局映画は怖くて観に行く勇気が出ず、書籍を購入しました。
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当時の私には、主人公『貫多』の生活や性格が全く理解できませんでした。親に守られながら生きている、自分とはあまりにもかけ離れていたからです。そのため活字が頭の上スルスルへ逃げてしまい、そっと本を閉じて棚の奥底へしまいました。
そこから10年ほど経った今、私は学生ではなくなり、家も出て、結婚、出産と経験してきました。その間に社会の酸いや苦みも少し知りました。もしかしたらの気持ちで、改めて開くとスルスル読み進められたのでした。
◆自業自得
◇チャンスを逃す
主人公「貫多」生活環境は不潔そのものだし、性格などに嫌悪感を抱きました。あまりにも自業自得な部分が多すぎるのです。しかし、その生活のあまりの苦しさに、読み進めるにつれてだんだんと愛おしい気持ちが湧いてきました。それは自分の中にも貫多の姿があるからなのかもしれません。
貫多には何度か、生活浮上させるチャンスが訪れるのですが、孤高過ぎるプライドや怠惰な性格でそれを逃して行きます。そして誰かのせいにして生きるのです。
外から見ると、苛立ちすら覚えますが、私にも思い当たる節が大いにあります。おそらく誰かを妬んだり、自分を甘やかしてしまうことは誰にでもあるのではないでしょうか。貫多はその部分があまりにも大半を占め過ぎていましたが、、、
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◇私の自業自得
他人を妬む気持ちがふんだんに表現されている作品ですが、私も同じような気持ちを抱くことが多くあります。それらを意識すると、自己嫌悪と共にどこか奮い立つ気持ちがしてきます。
仕事のことはまさにそうです。
私は大学も現役で出ていて、
その気になればいくらでもそれなりの収入を
得られる道はありました。
しかし、大学卒業時やりたいことを優先して新卒で会社へ就職をしませんでした。
就職を選択した同年代の人が、それなりにキャリアを積んでいる姿を見ると、焦りが出てきます。その焦りは、今の自分に結果がついてきていないなから生まれていることは分かっています。好きなことをやれていますが、完全に作る量と努力が不足しています。
時間や疲労のせいにして、制作を後回しににしてしまう日もしばしば、そんなことではいけないと思いながら数年が過ぎてしまいました。
ついつい誰かのせいにしたくなりますが、今の現実はどれもこれも、自分の選択によるものなのです。冒頭で紹介した。本作のあらすじにも同じような一文がありますよね。
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「どれだけ慊かろうとも仕方がない。すべては自業自得のなせる業なのだ。」
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◆これからの私は変わりたい
子どもを産んでから1年半強、
生まれ変わったように最近はこれまでにないほど手を動かせていて、生活の中で精一杯の時間を使い頑張れています。描いた絵を購入来てくださる方にも出会えて、幸せな日々を過ごしています。
しかし、やはりまだ生活できるほどの
結果が伴っていません。
毎日1時間でも2時間でも
制作に使う時間を確保できるように、
改めて、気合いを入れなおしたいと思います。
(この記事を書くのには、3〜5日ほどかけているのですがその間に月のものが抜けてすっかり前向きな思考が戻ってきました。)
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◆さいごに
西村賢太さん「苦役列車」は"私小説"ということで、作者が直接経験したことをもとに書かれています。主人公の人間臭さに強く惹かれたので、著者について調べてみると、ご本人自身の破天荒な言動や行動のエピソードをたくさん知ることができました。(真実かは私には知り得ませんが)
残念ながら、西村賢太さんは昨年2022年2月5日に亡くなられています。これまでテレビなどのメディアでお姿を拝見する機会が何度かありましたが、その時はまだ作品の素晴らしさに出会えておらず何の気なしに流し見をしてしまいました。今はとても後悔しています。動くご本人のお姿を拝見したいのと、肉声でお話しする内容を改めて聞きたいです。どこかに術があるのでしょうか。しかしながら、作品は生き続けておりますので、これからも他の作品を読んでいきたいです。
1年3ヶ月越し、遅ればせながらではありますが
ご冥福心よりお祈りいたします。
Aimi Iwashita