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「タブーを犯す。その先に残る自由さ。」

「そんなこと…ありえない。」

音楽家だけでなく、きっと誰にでも自分の中で「タブー」としていることがあって、

それがあまりにも当たり前になりすぎて、「タブー」としていること自体に無意識なことも多いと思います。

…もしそんな「タブー」が存在しないとしたら、その先にはどんなことが待っているでしょうか。

弦楽器奏者の方とのレッスンの一コマです。


「こうしなければ!」がもたらすもの。

「…この特定の音域が苦手で。その音域になるとどうしていいか分からなくなって、ただ必死でしがみつくようにしてやり過ごして、いつも何とか最後まで辿り着いてる感じで。」

ある弦楽器奏者の方と、レッスンの中でこんなやりとりがありました。

「うん…。まずそれでこれまでずっとやってこれたことは紛れも無い技術で、それについてはまず大いに拍手だよね。…でも、その"苦手"って言ってるところが、具体的にどうなって欲しいの?どうしたい?」
私が問いかけると、

「こんなふうに弓を使って…響きを…」
説明しながらやって見せてくれる生徒さんの声と動きに、私は何となく固さと違和感を感じました。


演奏者最大のタブー。

「それって…本当にそうしたい?」

「…逃げたくなる。小さい時からずっと言われて。……。」

「……。」「逃げれば?」

「は?」

「逃げればいい。」

「…逃げる?逃げていいの?」

「逃げたらダメなの?逃げられるよ。いつでも。いつでも演奏やめて、楽器置いて立ち去ってもいい。それも選べるよ。」

「あぁ…。『絶対逃げちゃダメだ』と思ってずっと弾いてた。そっか。いいんだ。逃げればいいよね。逃げてもいい。」

そう言いながら弾き始めた彼女の音に、そこにいた誰もが息を呑みました。私も含めて。


思い込みの向こう。

『演奏やめて、そこから立ち去る。』

演奏家として教育者として、こんなタブーとされるひとことを言うのは、やっぱりはっきり言って躊躇われました。でも、そのタブーという思い込みを取り去り、『演奏を止めて立ち去る』という一つの選択肢を自らに与えたあとに残ったのは、彼女の音楽に対する情熱と愛情だけだったように思います。

(やめてもいい。…でも、私は弾く。)

彼女に何が起こったのか、彼女の胸に何が去来したのかは、結局のところ彼女にしか分かりませんが…。

小さい頃から鍛錬を重ねる必要があったプレイヤーの方々が抱えているものは非常に根深く、計り知れないものがあります。

その中の何が、その人のタガに、ブレーキになっているのか。

それを少しでも緩めるお手伝いができたなら、とても幸せに思う…そんなレッスンでした。

『こうでなければならない』
どんな方の中にも、そんな無意識な「暗黙のルール」が存在していると思います。どうにもならない”やりづらさ”や”行き詰まり”を感じる時、自分の中にそんなルールが存在していないか、少しご自分の深い内面と向き合ってみる時間を取ってみることも、大切な「練習」の一つだと思います。


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