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喧騒と猥雑な旅

山本博道 詩集『夜のバザール』(思潮社)
 旅先で詠まれた「覇旅詩篇」と本書の帯にあるが、少し趣が違っていた。なぜならばカンボジア、タイ、ベトナムなど、東南アジアを巡るロードムービーの喧騒と猥雑な旅であり、漢籍の枯淡の旅情と呼べる情緒には欠けているように感じたからだ。むしろ沢木耕太郎の『深夜特急』シリーズの世界に近い世界観だった。本書のタイトルが象徴するように「線路市場」「泥棒市場」「百年市場」の他、各国の地名を冠した市場やバザールの詩篇タイトルが並んでいるが、それはそこが市場というトポスが象徴するであろう東南アジア諸国の活力の心臓部だからであり、否応なく書くほどに朧になってゆく書記主体の詩作行為を活性化する場所、また嘗て旅先で体験した入院生活で生死の境を彷徨した過去と、自分自身の70年代の記憶にも通底する自在な時空間だった。

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