満州国、その「消えない記憶」の詩法
「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。」安西冬衛の、この詩を含む満州文学というカテゴリーがあることを、わたしは、川村湊や樋口覚の本を読むまで知らなかった。犬塚堯が、そこに属することはなかったが、同じ大陸からの引揚げ者である池田克己創設の「日本未来派」に犬塚の詩が特集され、詩壇の詩人たちに認知されることになるのも、なにかの因縁によるに違いなかった。
安西が満州に渡った五年後の大正十三年(一九二四)に、犬塚堯は長春で生まれている。父は、満鉄が経営していた大連の大和ホテルに勤務