どのように行動は決まるのだろう? 〜 『行動を変えるデザイン』を読む~「理解」編
※この記事は「『行動を変えるデザイン』を読む」マガジンの一部です。
こんにちは。『行動を変えるデザイン』翻訳チームの相島です。今回は『行動を変えるデザイン』の第Ⅰ部について紹介します。
行動変容を理解する
従前、わたしたちには「ついつい」と「よくよく」の行動が同居しているというお話をしました。
彼を知り己(おのれ)を知れば百戦殆うからずと言いますが、行動変容を理解する上では、2通りの「己」が存在する、ということです。しかし、いったいどのようなときに、どちらの「己」がもたげてくるのでしょうか。
『行動を変えるデザイン』で紹介されている行動変容デザインのプロセスは、理解・探索・デザイン・改善です。今回は、「己」がどのように行動を決めているのかを説明する「理解」のパートについてです。
なぜトイレットペーパーなのか
1つ考えてみたいことがあります。なぜ「買い占め不安」の話題になる商材は決まってトイレットペーパーなのでしょうか。
まず、トイレットペーパーについて思いを巡らす、あるいは、「トイレットペーパーを買わないと」と思うきっかけが必要です。多くの人は1日に何回か(も)、トイレットペーパーのお世話になります。
次に、トイレットペーパーについて不安に思う必要があります。ここで直感的な反応として、トイレットペーパーが不安と結びつきます。明日都市封鎖されたらどうしよう。重大局面と書かれたフリップが頭をよぎります。
もし万が一、用を足したあとでトイレットペーパーがなかったら、どうなっちゃうんだろう。生まれてこの方そんなことあったっけ。とんでもない事態だ。
ここまでは一瞬です。そして、ゆっくりと「よくよく」の考えが頭をもたげます。落ち着け。近くのスーパーに買いに行けば済む話じゃないか。たかだか数百円のものだ。でも、売り切れちゃうかもしれない。Twitterでそんな投稿をみたな、そういえば。急がなきゃ。
うん、いま買いに行こう。
例えばこんなふうに、考えが巡ります。
もし仮にこれが、ペーパータオルであればどうでしょうか。
別にタオルで手をふけばいいや。あとで洗濯しないとだけど。代替手段があります。もし、トイレットペーパーが1ロール10万円する高級品だったらどうでしょう。本当に売り切れているのか?本当にそれはいますぐ必要なのか?あと20日はもつのでは?あなたはもっと真剣に必要性について考えるでしょう。
そう、トイレットペーパーは、実に買い占めやすそうなところにポジショニングしているのです。
CREATEアクションファネル
本書では、CREATEアクションファネルというフレームワークが紹介されています。きっかけ(キュー、Cue)、反応(Reaction)、評価(Evaluation)、アビリティ(Ability)、タイミング(Timing)の頭文字をとってCREATE(クリエイト)です。これらは行動するための前提条件です。どれかが欠けても行動には至りません。トイレットペーパーの例を見てみましょう。用を足すというきっかけ、不安と結びつく反応、買えばよいという評価、お手頃価格や近所で売っているというアビリティ(実行能力)、売り切れそうというタイミングを兼ね備えた商材(と思われている)、それがトイレットペーパーなのです。
おさらいとして、CREATEアクションファネルをシンプルにいうと、
あっ
やりたいなあ
やったらいいことあるかなあ
やれそうだなあ
今やりたいなあ
です。
行動を変えるには、「習慣」と「肩代わり」。
では、前述の「ついつい」の行動と「よくよく」の行動ではなにが違うのでしょうか。「ついつい」行動している場合は、評価、アビリティ、タイミングのステップがスキップできるのです。それが習慣である場合、わたしたちはついつい厳密な評価をさぼります。これは行動する難易度を大きく下げます。クリアすべき前提条件がわずか2つにまで減るからです。このため、行動を変え、定着した行動とする上で、習慣化は強力な戦略になります。
もうひとつ、強力な行動の変え方があります。習慣的に行動をとるには、5つもの前提条件を何度も繰り返さないとなりません。しかし、1度でも前提条件が崩れると、習慣化は後退することになります。実に大変なことなのです。では、行動を肩代わりしてもらえばよいのではないでしょうか。これが、プロダクトの力です。プロダクトに行動を肩代わりしてもらうのです。
「毎日掃除をしたいが面倒だ」と思っている人がいるとします。これを1度きりの行動に変えます。
ロボット型自動掃除機を手に入れ、毎日11時に掃除するように、設定する。
こうすれば、掃除する習慣を習得するよりもシンプルに、掃除による成果を手にすることができます。
ずるくない?
より簡単な行動に置き換える。これこそがプロダクトの力です!そんなのずるい!行動変わってない!と思う方もいるかもしれません。もちろん、「よくよく」考えてもらい、結果、行動が変わることも、なくはないのかもしれません(大変ですが)。
でも、わたしたちによって大事なのは、「より多くの行動を変えようとしている人が、達成したかったこと=成果に簡単にたどり着ける」ことなのだと思います。
したがって、行動変容デザインでは、だれが、何を達成するために、何をするのか、を明確にすることがとにかく重要です。このお話はこちらにて!
本書では、ここで紹介した内容の他にも、心理学、行動経済学分野からプロダクトづくりに活かせる豊富な研究が紹介されています。また、CREATEアクションファネルの例外について、あるいは、どのようにファネルから水漏れしていくかなどの説明、行動変容戦略のパターンについての説明がなされています。ぜひご興味ある方はご一読を!
書籍紹介ページ:
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イラストについて
この記事のイラストですが、前回のわたしの記事と変わっていることに気づいた方もいらっしゃるのではないでしょうか?前回まで恥ずかしながら自分で書いていたのですが、なんだかアレだなあとおもっていたところ、学校の友人のizenaさん(instagram)がイラスト描いてくれました。自分のこどもにも伝わるように描いてくれているとのこと。とてもありがとうございます!ご堪能ください!
続きはこちら:
『行動を変えるデザイン』第Ⅰ部〜心の働きと行動変容を理解する〜の目次
第1章 心は次にやることをどうやって決めているのか
熟慮の心理、直感の心理
解明される心の動き
ふだんのわたしたちは次に何をするかを選んでいない
過去の経験によって、気づかぬうちに直感的反応と行動が生じている
習慣による直感的な行動は予測できる
外界への反応の仕方は文脈に影響されやすい
わたしたちは「選択している」ときでさえ、さぼっている
安易な課題を探しがち
誰かが答えを教えてくれる
心のリソース(心的資源)はごく限られている
シンプルで当たり前なことがやはり大事だ
意思決定プロセスのまとめ
まとめ
第2章 なぜ他でもないその行動をするのか
「いつ」「どうして」の行動モデル
キュー(Cue)
反応(Reaction)
評価(Evaluation)
アビリティ(能力、Ability)
タイミング(Timing)
CREATEアクションファネル
どのステージも相対的なものである
どのステージも人によって異なる
あるステージは他のステージと貸し借りしている
行動のたびにファネルは繰り返されている
ファネルは通過するたびに変わっている
まとめ